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古市憲寿「日本中の人に、地元のバスに乗って欲しい」

クローズアップ

 

 いまやテレビ番組のコメンテーターとしても大人気の社会学者、古市憲寿さん。古市さんは幼稚園から小学校高学年にかけてほぼ毎週末、都バスで東京を巡っていた。

「本当に都バスが好きで、当時インターネットはまだ使わない時代でしたから、今でも貰える紙の大きな路線図を睨みながら、まだ乗ったことのない路線はどれか、どう乗り継げば一番多くバスに乗って東京1周ができるか、毎回自分でルートを決め、母方の祖父と一緒に乗っていました」

 ファンに高齢男性が多いといわれる古市さん、「おじいさん」に愛されるキャラクターは都バス内で涵養されたのか。

「祖父は自分がバス好きという訳ではなく、僕に付き合ってくれていたんですね。家が近所で、自営業を半ば引退して時間があったのか、バスに限らずよく遊んでくれました。絵を描き文章も書く人で、確かにおじいちゃん子でしたね」

 現在都バスには178系統あるが、新刊『大田舎(だいいなか)・東京 都バスから見つけた日本(ニッポン)』のフィールドワークとして新たに百路線に乗った。「BRUTUS」連載時のタイトルは「地上2.3メートル(車窓の高さ)からの東京。」。若き社会学者の「ちょっとだけ上から目線」は都の思いがけぬ貌を次々と捉える。たとえば東京大学と上野駅をつなぐ路線「学01」。東大生協前のバス停から上野駅まで約15分で結んでいるが、元気な学生達はバスに乗らず駅まで歩く。主な乗客は「東大病院前」から利用する高齢者だ。東大の収益のうち、東大病院からの収入は学費収入の3倍だという。

『大田舎・東京 都バスから見つけた日本』文藝春秋 1400円+税

「東京=高齢者というイメージは一般的にあまりないですが、日中働いている現役世代には見えにくいかもしれないけれど、今、都の人口の23%が65歳以上。しかも東京は人口が多いので高齢者の実数も多いんです。出生率が下がり、地方からやってくる若者の数も減り、昔上京してきた若者が高齢者になっている。介護施設をどうするかなど、高齢化社会にふりかかってくる問題が近い将来に一番顕在化してくるのが東京でしょう」

 問題提起はまだある。猪瀬直樹知事時代に都バスの24時間化が検討され、実験的に「都01」内で終夜運転が始まったが知事交代であえなく頓挫。

「あれはわるくない取り組みでした。ロンドンやニューヨークなど世界の大都市に較べて、東京は夜の交通が貧弱です。地下鉄もJRも24時間バスも走っていない」

「錦11」の水天宮前の次のバス停は「蛎殻町(かきがらちょう)」。かつて海岸地帯だったことが地名からわかる。

「この本は東京に住んでない人にも読んで欲しい。地元のバスに乗って、少し違う角度から自分の町を眺めてみると楽しいし、考えるヒントも見つかると思うんです」

ふるいちのりとし/1985年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者をクールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著作に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』等。NHK Eテレ「ニッポンのジレンマ」MC。

『大田舎・東京 都バスから見つけた日本』/小池百合子都知事との対談も収録。知事が西宮で学生だったころ、満員電車で嫌な思いをした経験が小池都政の原点となったことが判明!?  本のアートディレクションは旧知の佐野研二郎氏。個人的には、氏の「冤罪」を信じている。本当は幻の五輪エンブレムを表紙に使いたかったが大人の事情で断念。

大田舎・東京 都バスから見つけた日本

古市 憲寿(著)

文藝春秋
2017年6月22日 発売

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