たまに田舎を旅すると、“いかにも”な感じの小さくて古い駅舎を見つけて、「田舎はこういう駅が残っていていいよね」なんて言ってみたりする。戦前に駅が開業した頃の面影を今に留める木造駅舎。建設当時はモダンだったんだろうなと思わせる、絶妙な和洋折衷駅舎。ホームに残る木のベンチ。そんなひとつひとつを、なぜか懐かしく感じてしまったりするのだ。
が、別に田舎に行かなくても、大ターミナルが数多ある大東京にだって、そんな古ぼけた小さな駅はある。普段、気にもとめずに通り過ぎているだけの駅だって、実は古き良き駅舎かもしれないのだ。というわけで、東京都内の“古き良き”駅舎5選を紹介しよう。
池上駅(東急池上線)――ザ・昭和遺産
「池上線が走る町に、あなたは二度と来ないのね」
駅前には小さなバスターミナル、商店街と足早に行き交う老若男女。いかにも昭和らしい東京の小さな私鉄の駅、池上駅はかつて西島三重子が歌った名曲『池上線』の世界観そのものだ。シンプルな駅舎に白塗りのコンクリートの屋根が載り、ホームの壁や上屋はもちろん木造。これまた白塗りのホームの壁に取り付けられた長いベンチは、もはや東京では池上線の駅くらいでしか見かけない昭和遺産のひとつだ。蒲田方面ホームと五反田方面ホームを結ぶ構内踏切も、都内にはほとんど残っていない。
開業は1922年、池上本門寺参詣客を当て込んで作られた池上駅。駅舎の築年数はわからないが、白壁の駅舎という門前駅らしい和洋折衷のモダンづくりは、きっと開業当時のままだろう。
が、そんな池上駅も今年6月から改良工事がスタート。2020年には5階建ての現代的な駅に生まれ変わるとか。白塗りの壁から飛び出た木造長ベンチに腰掛けられるのも、あとわずかだ。
原宿駅(JR山手線)――レトロモダンと「宮廷ホーム」
日本の流行を創り出す町の玄関口は、東京都内では最古と言われる木造駅舎。1924年、関東大震災の翌年に建造された駅舎で、三角形の屋根の上に小さな塔をしつらえたイギリス風だ。
さらに原宿駅には明治神宮直結の臨時ホームがあったり、駅の北側少し離れたところに皇室専用の通称“宮廷ホーム”があったりと、山手線の他の駅とは少々異なる趣を持っている。臨時ホームは今でも正月の初詣シーズンにはフル稼働しているが、宮廷ホームは2001年以来不使用。白塗りの木造でシンプルかつ気品のある佇まいは、まさに皇室専用感バリバリなのだが、今はそのホームの前を湘南新宿ラインの列車が駆け抜ける。
そんな原宿駅だが、こちらも池上駅同様2020年に向けて建替え予定。駅舎は新しい2階建ての建物に生まれ変わり、臨時ホームは外回り専用として常設化されるという。さらにコンコースや階段も拡張されて、今の原宿駅の絶望的なゴミゴミ具合は解消される。
とは言え、古き木造駅舎を残してほしいという声も少なくないとか。混雑解消を取るか、古き日本の文化遺産を取るか、実に悩ましい問題だ。そしてその時、宮廷ホームは残るのか。流行の最先端と大正日本のレトロモダン、そして皇室。“日本らしさ”がないまぜとなった現在の原宿駅は、まもなく姿を変える。