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牧野 知弘
2017/07/11

オフィス大量淘汰時代が到来する

見かけの空室率改善の陰で「テナントドミノ倒し」が始まっている

 今、東京都心部を歩くと、数多くの工事現場にクレーンが林立し、建設の槌音がこだまする光景を随所に目にすることができる。

 東京都は2020年にオリンピック・パラリンピックが開催されるのだから、関連する工事が多いのだろう、多くの人はそう感じるはずだが、実は五輪施設関連の工事は、国立競技場の新設などの大型工事はあるものの、都心部にそれほど競技施設が建ち並ぶわけではない。

 建設されている多くは巨大なオフィスビルである。

バブル期に匹敵するオフィスの供給量

 森ビルの調査によれば、五輪が開催される2020年までの4年間に都内では88棟、面積にして約473万㎡の大規模ビルの供給が予定されている。大規模ビルとは森ビルの定義によれば1棟の床面積が1万㎡(約3000坪)以上のビルを指す。

 これから東京五輪開催までに年平均で118万㎡のオフィスが都内で新たに誕生することになる。

 この年間118万㎡という供給量は、平成バブル期と言われた平成初期の頃の供給量にほぼ匹敵する。平成バブル期と異なるのは供給棟数の違いだ。1989年から92年までの4年間のオフィス供給量は426万㎡で161棟が供給された。つまり、平成バブル期は1棟平均26,460㎡(約8,000坪)だったビルの規模が、今後4年間で建設されるビルは53,750㎡(約16,260坪)と約2倍の規模になるのだ。

 さらに特徴的であるのが、今後供給予定のビルの約70%が都心3区(千代田、中央、港)で建設されるということだ。またこれらの供給のうちの多くが既存ビルの「建替え」によるものだとも言われている。

都心5区の空室率は改善し「貸手優位」が続くが……

 現在都心5区のオフィスビルの空室率は3.41%(三鬼商事調べ)。数年前と比較するとなんと3%以上の改善である。オフィスの需給バランスは極めてタイト、つまり「貸手優位」の状況が続いている。

 今後の大量供給も老朽化した既存ビルの建替えであるから、オフィス床が大量に余ることはなく、さらに東京都では、今後東京をアジアの金融センターにする構想もあり、これからは外資系企業を呼び込む必要があることから、オフィス需給のバランスは崩れないというものだ。

 しかし、マーケットを注意深く見ると、どうもあまり楽観はできないようだ。

「押すと餡出る」効果が空室率改善の本当の理由だった

 ポイントは「今後供給される予定のビルの多くが既存ビルの建替え」であることだ。都内のビルの多くが現在、建物の老朽化問題を抱えている。建替えるにあたっては当然、今入居しているテナントに対して立退料等を支払って退去してもらうことになる。

 退去を余儀なくされたテナントはどこに行くだろうか。仕方がないので、別のビルの空室を探し出してそこに引っ越すことになる。それまで空室を抱えていたビルの稼働率は改善する。

 ここ数年で、都内の既存オフィスビルが建替えにあたって取り壊され、ビルを追い出された大量の「テナント難民」を生じさせているのだ。難民の多くが既存ビルの空室に収まったがゆえに、既存ビルの空室率が大幅に改善する。このシナリオで計算すると、実は、ここ数年における空室率の3%以上の改善は、ほぼ説明ができてしまうのだ。

 こうした「押すと餡出る」効果が、実は都心部のオフィスビルの空室率改善の「本当の理由」であることは、あまり知られていない。