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豊洲市場と森友学園、不動産屋から見た問題点

2017/04/04
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 最近、不動産にまつわる政治ショウが花盛りだ。

 東京豊洲の新市場では、土地の売主であった東京ガスから東京都へ譲渡された土地に関し、土壌汚染の処理を巡ってその対応や契約の仕方、そして建物の建設方法や竣工後の地下水検査の結果について喧々囂々の状態である。

 市場の豊洲への移転をするべきか、せざるべきか、首都東京が大議論をしているうちに、今度は西の商都、大阪で新たな火種が持ち上がった。「瑞穂の國記念小学院」なるいささか大袈裟な名称の学校の建設用地取得をめぐる疑惑が、時の政権をも巻き込む大騒動に発展している。

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 この日本を代表する2つの都市で同時進行している騒動は、不動産屋の観点からみると実によく似た構造にある。

豊洲市場と森友学園、2つの土地で行われた特殊な取引

 現代では不動産取引を行う際に、土地について土壌汚染があるか、ないか等の調査を行うことは、少なくとも国や自治体、主要な法人間での取引ではごく「常識的」な手続きだ。また地中に埋設物があるかどうか、ゴミなどの廃棄物が存在するかどうかについても、その負担の仕方も含めて、必ず必要となる手続きである。どうやら2つの騒動では、この手続きが、少なくともあまり「常識的」とは思われない、言葉を替えるならば、きわめて「特殊」な形態で行われていたようだ。

 豊洲の土地は東京ガスが工場として保有していた土地という。土地の用途地域は工業専用地域である。不動産屋からこの土地を眺めると、工業専用地域でガス工場があった、という時点で、表現は乱暴だが「汚い土地」ということになる。

 つまりそのまま土地を取得したのでは、その後の利用に大きな支障が出るので、通常は売主側に必要な対策をすべて施してもらってから受け取るというのが「常識的」な取引である。また取得後に発覚した土壌汚染等に対しても売主側が瑕疵担保責任(買主では簡単に発見できないような欠陥があった場合には、売主側が負わなければならない担保責任)を負う、というのが少なくとも「常識的」な取引だ。

 ところが、実際の取引の経緯をみると、東京ガスが土壌汚染対策として負担したのはわずか78億円にすぎず、それ以上の瑕疵担保責任は負わない、というきわめて「特殊」な契約をしているようだ。実際に東京都は土壌汚染対策として東京ガスからの対策費とは別に508億円の負担をしているという。

 さらにこの「特殊」な取引を行うにあたって石原元知事は「瑕疵担保責任については知らなかった」という、ちょっと信じられない答弁をしている。

「クリーニング屋の跡地は要注意」は業界の常識

 ちなみに、その後築地市場についても、多くの汚染物質の存在が明るみに出され、さあ築地も危ない、だから豊洲へ、みたいな相対論的な議論まで出始めている。築地市場は駐留米軍のクリーニング施設があったというが、不動産屋からみれば、クリーニング屋の跡地は要注意、というのはきわめて「常識的」な知識である。

 戦後の混乱の中で整備された築地市場が、現代ではあたりまえの土壌汚染対策などやっているわけがない。それを今さら持ち出して新市場と比較するのは空しい議論にも映る。

 瑞穂の國記念小学院の土地取引を不動産屋の観点からみてみよう。定期借地契約で契約し、それを土地売買に切り替えることについては、国有地の売買取引では異例かもしれないが、民間ではあくまでも交渉ベースの話だと考える。問題はこの土地の中から出てきたとされる大量の産業廃棄物の取り扱いである。通常は産業廃棄物の存在等が判明した場合には、買主は売主に撤去させることを条件に土地の引き渡しを受けるのが「常識的」な取引である。また、通常は撤去費用は売主が持つことになる。

 ところが、このケースではすでにいったん事業用定期借地契約を締結した後だったので、小学校建設に支障がでないようにするために、撤去費用を売主である国が独自に見積もって売買金額から控除したという。これはちょっと「特殊」な取引にみえる。

 仮にこの産業廃棄物を撤去すれば、ちゃんとした学校用地として活用ができる土地であったとするならば、売主である国は、売買金額から差し引くのではなく、撤去費用を複数の業者に見積もらせたうえで、買主側で撤去させ、撤去にかかった費用を別途、国が負担するという契約にすればよかったのではないか。つまり売買金額は9億5600万円として売買を行い、撤去費用は別途国が実費を負担する、ということにするのが「常識的」な取引なのである。

 ちなみにこの9億5600万円という金額は土地鑑定士が、「産業廃棄物等がない場合」を想定して算出した金額である。産業廃棄物を撤去する費用をこの金額から控除するというのは何とも解せない話だ。

地下に眠る魔物は大災害時に人々に襲いかかる

 この問題を考えるには、この産業廃棄物の処理費用を売主である国の販売費用とするべきであったものを、売買金額から直接控除してしまったために、買主が一方的に「格安」で土地を取得できることになってしまったところに原因があるのではないだろうか。

ぱっと見には地面に見えても土地の下には魔物が眠っている ©iStock.com

 土地は、ぱっと見には地面でしかない。しかし、土地の下には実はいろいろな魔物が潜んでいる。コンクリートやアスファルトで固めてあるから大丈夫だ、とか産業廃棄物は全部を処理せずにグラウンドの下に埋めておこう、などという生半な処置をしたところで、土地の下に眠る魔物たちは、大地震の発生や長い時を経て必ずその目を覚まし、人々に襲い掛かるのだ。土地をなめてはいけない。

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