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瀧井 朝世
2017/07/29

累計85万部突破、今一番熱い“八咫烏シリーズ”! 最新刊『弥栄の烏』は「読者の価値観を揺すぶってみたかった」──「作家と90分」阿部智里(前篇)

話題の作家に瀧井朝世さんがみっちりインタビュー

genre : エンタメ, 読書

「この世界はまだまだ続きがある」──20歳のデビュー時の言葉の真意が今明らかに

――2012年のデビュー作『烏に単は似合わない』(文春文庫)に始まる八咫烏シリーズ(特設サイト http://books.bunshun.jp/sp/karasu)、いよいよ第6巻となる新作『弥栄(いやさか)の烏』(2017年文藝春秋刊)で第1部が完結ですね。

 人に姿を変えることができる烏たちが暮らす〈山内〉を舞台にした王朝ファンタジー。デビュー作でインタビューした時に、「この世界はまだまだ続きがある」とおっしゃっていたのが、まさかここまでの広がりを見せるとは。

阿部 当時のことを思い出すと感無量です。あの時もう、この6巻までの内容が頭の中にあったんです。でもまだその内容をインタビューで言うわけにもいかなくて、でもいつかお話しする日が来るのかなとなんとなく思っていて……という記憶が今、甦りました(笑)。

弥栄の烏 八咫烏シリーズ6

阿部 智里(著)

文藝春秋
2017年7月28日 発売

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実はこの物語は“崩壊”の物語なんです

――少年、雪哉らを主要人物として、后候補の争いや大猿との闘い、近衛隊の少年たちの成長を描き、この『弥栄の烏』では〈山内〉という世界自体の謎に迫りつつ、八咫烏と猿たちとの大決戦になるだろうとは思っていましたが、ああいう展開になるとは思いませんでした。

阿部 シリーズ第1巻の『烏に単は似合わない』が后選びという無邪気な身内の覇権争いの話から始まったわけですが、話をそうした最小の単位から始めて、少しずつ大きくしていこうと思っていました。ただ、この物語は実は第5巻の『玉依姫』(16年文藝春秋刊)が最初にあったのですが、それを読んでもらえれば分かるように、実は崩壊の物語なんです。そこに直面した雪哉たちにいかに感情移入してもらえるか、それまでの巻で彼らの心情を丁寧に描写していくように心がけました。そうでなければ〈山内〉が危機を迎えようと雪哉がああいう選択をしようと、読者からすれば「ふーん大変だね」で終わってしまいますから。それに読者には、八咫烏たちこそが正義だと思ってもらう必要もありました。でも第6巻で蓋をあけてみたらこうですから、みなさんの思っている正義とは果たしてどういうものなんでしょう、という問いかけをぶつけて、価値観を揺すぶってみたかったんですよね。

阿部智里さん ©榎本麻美/文藝春秋

――大風呂敷を広げているのかと思ったら実は畳んでいた、みたいなところがありますよね。どんどん世界を広げていくファンタジーもあると思うけれど、このシリーズはちょっと違うわけです。

阿部 世界を広げる作品に憧れはあります。将来書きたいとは思うんです。ただ、まずは自分の手に負える範囲で、破綻のない世界を書こうと思いました。

――この6巻まで読んで、ちゃんと刊行順の構成も考えられていたんだなと気づきました。第1弾の『烏に単は似合わない』と第2弾『烏は主を選ばない』(2013年刊/のち文春文庫)は対になっていて、第2弾は女性たちの争いの裏側で若宮ら男性たちに何があったか分かる話。第3弾『黄金(きん)の烏』(14年刊/同)で大猿が登場し、この〈山内〉の世界にどういう問題と謎があるのかを提示し、第4弾『空棺の烏』(15年刊/同)で武官の養成学校で学ぶ少年たちの個々の物語を見せておくことで、第6巻の彼らのそれぞれの運命が胸に迫るという……。

阿部 そうです、読者の方たちから「第3巻の話を受けて第4巻で猿たちとの闘いが本格化するかと思ったのに、なぜいきなり学園もの?」という声は多かったんですが、そこで書いておかなくてはいけなかったんです。あそこで彼らに幸せな学園生活を送ってもらう必要があったんです。だからあえて『空棺の烏』はキャラもの的な方向性を重視しました。

山内中央図:これが八咫烏たちの世界だ! この地図の原型となったイラストは阿部さん自ら色鉛筆を駆使して執筆した。
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