第二部はきっとすごくショックな話になる。既刊の意味も変わってくる
――第4弾の少年たちの学園もの、『空棺の烏』で一人一人のキャラクターが胸に刻まれるからこそ、『弥栄の烏』のみんなの活躍が胸に沁みますね。
阿部 『空棺の烏』がなかったら、『弥栄の烏』は1冊分の分量にならないと思います。もしくは、このモブAが死んでこのモブBが生き、モブDとEが負傷して……というなんの味わいもない話になっていたと思うので。
――いや、本当に、あの人があんな目に……という。6巻ではなく5巻の『玉依姫』でもそのことは描かれているんですが、あの巻では八咫烏たちの名前が伏せられているんですよね。『弥栄の烏』になってはじめて、烏側で何が起きていたのか分かるという。
阿部 『玉依姫』で八咫烏たちの名前を書いたら邪魔になりますよね。私はキャラクターを書くつもりはなく、物語を書くつもりなので、『玉依姫』の物語の中ではそれらが邪魔だったんです。
雪哉はもともと、能力が高いわりに危うい子なんだと思う
――そういう出来事を経て、『弥栄の烏』で雪哉はまた違う面を見せますよね。
阿部 雪哉のタガを一回外す必要があったんです。でも生半可なことではあの子のタガは外れない。ただ、あの子はもともと、能力が高いわりに、危うい子なんでしょう。1巻から自分の身内が大事で後はどうでもいいと思っているところがある。最初からそういうやつとして書いているんです。自分の居場所を守ろうという思いがすごく強い子なんです。
──雪哉にはお兄さんと弟とは母親が違うという、複雑な出生の事情があったりする。そういう細かな設定が、登場人物の人物造形に説得力を持たせていますよね。さて、「八咫烏シリーズ」がこれから第2部でどうなっていくのか楽しみですが。
阿部 第2部は、すごくショックな話になるんじゃないかと思っています。既刊の内容の意味が変わってくると思います。そういうふうに書きたかったんですよ。新刊が出るたびに既刊の意味が変わって、読み返すと新しい発見がある、というような。
例を挙げると、澄尾とかもそうですし。実は第1巻で澄尾は真赭の薄のことを気にしているんです。澄尾が「(若宮が真赭の薄のことを)すごく魅力的な方というふうにおっしゃっていますよ」と言っているんですが、若宮がそんな気の利いたことを言うわけないので、あれは澄尾自身の考えを言っているんです。『空棺の烏』の時だって、真赭の薄の弟である明留について、「薄どのの弟君は元気か」と言ったのも澄尾なんです。最初に読んだ時は気付かなくても、真赭の薄と澄尾というのを気にして読み返すと発見があるという、そういう書き方をしようと思っているんです。