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新刊が出るたび、既刊の意味が変わり、読み返すと新しい発見がある。そういうものを書いている──「作家と90分」阿部智里(後篇)

話題の作家に瀧井朝世さんがみっちりインタビュー

2017/07/30

genre : エンタメ, 読書

note

読者からの質問

■天狗の一族について教えて下さい。<山内>の内部、招陽宮に烏天狗がお使いに来たり、潤天が若宮と花街で遊ぶなどはありますか。また世代交代や婚姻事情や寿命についてなど、外界での潜伏実態をもう少し知りたいです。(50代・女性)

阿部 外伝を書くかもしれないので、今ここではお答えしないでおきますね。

■趣味は何ですか?(10代・女性)

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阿部 便箋や封筒集めと、和紙集め。和紙で貼り絵を作ります。あとお香も焚きます。

■今のシリーズ以外の構想はありますでしょうか。歴史ものとかでしたら年代など教えていただけないでしょうか。(30代・男性)

阿部 ありますが、今のところ歴史ものは書かないと思っています。私が大学で歴史を学んでいることもあり、実在した人間のことを小説にして書くのは難しいなと感じます。さらに言うなら、私は、歴史小説は全部ある種のファンタジーだと思っているので、だったら最初からファンタジーと名のついているものを書こうかなと思います。

赤城山、大沼、榛名神社……生まれ育った場所が心象風景として<山内>に影響している

■私は高校2年生で、阿部さんが『玉依姫』を書かれた時と同じ学年ですが、この年齢で山内を創り出されたということが信じられません! 日本人だから和風ファンタジーを書こうと思われたそうですが、もともと神話などに興味があったのでしょうか? また、高校生の阿部さんが、どのように八咫烏や神様について勉強して執筆されたのか教えてください!(10代・女性)

阿部 確かにもともと神話などが好きでしたね。小学生の頃に荻原規子さんの勾玉三部作を読んで日本神話というものにファンタジーの要素というものがたっぷりあるんだなと知って感動したんです。ところが、意外と日本神話を題材にしたファンタジーは数が少ない。もしかしてすごい金の鉱脈があるのにまだ発掘されていないんじゃないかという意識は持っていました。それで八百万の神様辞典みたいなものを見るところから始まって、ちょこちょこ調べていった感じです。

 群馬県出身なんですが、小さい頃に赤城山にある幼稚園に通っていましたし、遠足で大沼にも行きましたし、榛名湖の榛名神社は小さい頃からお参りに行くところだったので、そのあたりが心象風景として〈山内〉の描写に影響していると思います。

榛名山や榛名神社、赤城山が心象風景にあるという山内の世界

■阿部先生こんにちは、『空棺の烏』の登場人物の結について質問です。雪哉が結を先んじて身請けしていた事を、結自身は知らされていたのでしょうか。(30代・女性)

阿部 ああ、これは結も千早も明留も知りませんでした。

■招陽宮、桜花宮は、素敵な名前だと思いました。名前の由来か、思い入れがありましたらお聞かせいただければありがたいです。(40代・女性)

阿部 普通なら東宮となるはずの場所なんです。ところが私は東西南北で家臣たちの家を表してしまったので、東という文字を使うわけにはいかなくて。それで、陽が出てくるところの宮殿という意味で、招陽宮という言い方にしました。桜花宮は桜の花が多いところだから。歴代の姫たちが我こそはと競って桜の景観を作った、という裏設定もあります。

■本の顔ともいえる題名はどうやって決めているのでしょうか?(10代・女性)

阿部 まずは仮題があって、そのまま決まることもあれば、編集さんたちとディスカッションして決めることもあります。ただ、みなさんの手に届いている題名は、商品価値を最大限に高めるために検討された最終形であります。