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小島秀夫が観た『ワンダーウーマン』

ワンダーなウーマンからワンダフルなヒューマンへ

2017/08/20

genre : エンタメ, 映画

 プリンセス・ダイアナこと、ワンダーウーマンが世界を救った。しかも、いくつもの世界を同時に救った。ひとつは、映画で描かれる、第1次世界大戦で破滅の危機に瀕した世界。もうひとつは、これまでいまひとつ精彩に欠けていたDCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)。そして、昔から彼女のファンだった(私のような)中年の男たち。さらには、女性であるというだけでこの現実の世界で不当な扱いを受けている人たちを、いっぺんに救ってくれたのだ。

 そんなマーベラスな映画が、現在世界中でワンダーな快進撃を続けている『ワンダーウーマン』だ。

©2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

元ミス・イスラエルのガル・ガドットのワンダーな魅力

 映画を見た子供たち(ガールズ)はこぞって彼女のコスプレに興じ、興行収入でも、DCEUの嚆矢である『マン・オブ・スティール』も、第2弾の『バットマンVSスーパーマン』も抜いて、シリーズ最高を記録した。女性監督作品として歴代興収ナンバーワンに踊り出るなど、名実ともにその人気の高さを証明している。このヒットを受けて、早くも続編の公開が2019年12月に決定、主演のガル・ガドットの続投も報じられた(監督のパティ・ジェンキンスについては、まだ正式な発表がないようであるが)。

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 彼女はDCコミックスの世界では、スーパーマン、バットマンと並ぶ3大ヒーローの一人なのだが、これまでは他の2人に比べて知名度は低かった。元ミス・アメリカのリンダ・カーターが演じたTVシリーズをはじめとして、これまでの映像化作品も大成功したとは言い難い。そんな彼女が、いまや世界の救世主として脚光を浴びている。

 この映画が大ヒットした理由はいくつもあげられるだろう。

 何をおいても、ワンダーウーマンを演じた元ミス・イスラエルのガル・ガドットのワンダーな魅力がヒットの最大の原動力であることには間違いない。老若男女を問わず、世界中が彼女の魅力の虜になった。

 しかし、彼女がワンダーウーマンを演じることが報じられると、一部では、原作のグラマラスなイメージにそぐわないなどという批判的な意見が噴出した。ワンダーウーマンにセックス・シンボルとしてのイメージを求める男性的な視線ゆえのことなのだろう。とはいえ、もしも彼らの視線に寄り添ったキャスティングをしていたら、ここまでのヒットは望めなかったに違いない。スーパーヒーローが登場する映画に、スーパーなヒロインはこれまで何人も登場した。しかし多くのヒロインが男性のファンタジーを補完する役目を背負わされていた。今度もそうだったら、女性の観客の共感は得られなかったはずだ。

 本作のブレーンたちはそのことに自覚的だった。それゆえのガル・ガドットの起用であり、女性監督パティ・ジェンキンスの登用だったはずだ。男たちの欲望だけでなく、女たちの要望にも応える。これは、現在の映画をめぐる状況への賢明な対応でもあり、この映画の大ヒットがそれを証明している。

 例えば『スター・ウォーズ』シリーズは、『フォースの覚醒』と『ローグ・ワン』で、それぞれ女性を主役に据えた。2017年の9月から始まるドラマシリーズ『スター・トレック:ディスカバリー』も女性の副長が主役だ。女性が主役の映画自体が珍しいのではない。かつては男性が担っていた(あるいは独占していた)、世界を救うという「正義(ジャスティス)」の役割を女性も手にしているという作品が、ハリウッドのトレンドであり、それらは間違いなく多くの観客に支持されている(それはゲームの世界も同様である)。