「私たちは何者なんでしょう。ハリウッドとはそもそも何なんでしょう。いろんなところから来た人たちの集まりでしかありません」
2017年の第74回ゴールデン・グローブ賞において、セシル・B・デミル賞を受賞したメリル・ストリープは、受賞スピーチでそう語った。
「ハリウッドにはよそ者と外国人がそこらじゅうにいるんです。その人たちを追い出したら、あとは、アメフトと総合格闘技(マーシャルアーツ)くらいしか見るものはないですが、それは芸術(アーツ)ではありません」
そう言って彼女は、芸術の力――映画の力によって、現実にふるわれている暴力に対抗することの重要さを訴えた。
映画の力とはなんだろう、夢見る力とはなんだろう。『ラ・ラ・ランド』に、私はその答えを見つけた。
過去にも現在にも存在しない、夢の国「LA LA LAND」
見慣れたはずの、色あせた現実のLAのハイウェイでの、圧巻としか言いようのないミュージカルシーンで、映画は始まる。巨大なスクリーンは、多幸感に満ちた音楽(しかしどこか陰を感じさせる歌詞)と、様々な色彩の奔流に満たされて、一瞬にして現実を忘れ、夢の世界に連れ去られる。すでに私はこの映画の魔法にかかっていた。
現代のハリウッド映画では、めったに見ることのできなくなったシーンだ。
『巴里のアメリカ人』『雨に唄えば』『バンド・ワゴン』など、第2次世界大戦後に黄金期を迎えたハリウッドのミュージカル映画を思わせるカラフルで壮大なシーンが、21世紀の「新作映画」として、「古き良き」ハリウッド映画への懐古ではなく、現在の映画として私たちの眼の前で繰り広げられる。
まさに曲のタイトルが示すように「Another Day of Sun」として、この映画は始まるのだ。
だからこの映画の舞台は、現代の現実のLAではなく、古き良きLAでもなく、もうひとつのLA――映画の夢とアメリカの夢が生きている「夢の国」なのだ。私たちは、動き出した車とともに、現実のLAから、夢のLA LA LANDに降りていく。