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小島秀夫が観た『ラ・ラ・ランド』

ラ・ラ・ランドはハリウッドの夢を見るのか?

2017/07/23

genre : エンタメ, 映画

note

ライアン・ゴズリングが前代未聞の“珍事”で微笑んだ理由

 第74回ゴールデン・グローブ賞で『LA LA LAND』は、史上最多の7部門受賞を果たした。

 さらに第89回アカデミー賞でも、本作は監督賞をはじめとする6部門を受賞、作品賞も手にするのではと思われたその発表の瞬間、あの前代未聞の“珍事”が起きた。

 作品賞が『ムーンライト』だとわかった時の、ライアン・ゴズリングの微笑みが忘れられない。のちのインタビューで「誰かが発作でも起こして倒れたんじゃないかと心配した。でも、そうじゃなかったことがわかって安心した」と本人が答えているのだが、私はあの微笑みを目にした時、別のことを想像していた。

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© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

『ムーンライト』は社会的かつ性的マイノリティーを描いた作品である。メリル・ストリープがスピーチしたように「よそ者と外国人がそこらじゅうにいる」夢の国ハリウッドが選ぶのにふさわしい作品が作品賞をとった。「SUN」ではなく「MOON」が受賞した。ライアン・ゴズリングはそのことを祝福したのではないか、と思ったのだ。

 メリル・ストリープのスピーチは、他の多くのハリウッドにやってきたものたちと同様に、ライアン・ゴズリングもカナダ出身だということにも触れている。「いろんなところから来た人たち」の一人であるライアンが『ムーンライト』の受賞を寿ぐ。あの微笑は、授賞式に集まった人々、ハリウッドで夢を実現しようともがく全ての人々に向けられたものではないだろうか。

映画が夢を見せてくれる装置であるという意味

 映画は夢を見せてくれる装置だが、同時に20世紀最大の娯楽の装置でもある。最新のテクノロジー(それは映像をつくる技術だけでなく、観客の欲望を吸い上げるマーケティングや宣伝の技術も含む)で成立している工場でもある。そうであるがゆえに、そこにはビジネスと政治が介入する。メリル・ストリープのスピーチは、そのことへの抵抗を宣言したものだった。

 しかし、もともと何もない砂漠地帯だったLAに夢の装置を築けたのも、ビジネスと政治の力のおかげだった。監督も役者も、夢の装置の維持のために生贄にされる。エマ・ストーン演じるミアも何度もオーディションに落とされ、危うく生贄にされかかる(あるいは、成功したものですら生贄に捧げられる)。それでもハリウッドに集う人たちは、夢を見ようとし、夢を見せようとする。

 そして、夢が叶おうとも、破れようとも、LAの空にはきらめく太陽が――Another Day of Sunが昇る。

 朝の渋滞のハイウェイ。進まない車。鳴り始める音楽。踊り出す人たち。

 音楽がやむと、車は動き出し、人々はまた、それぞれの夢の国、ハリウッドという夢の装置、LA LA LANDへと降りて行くだろう。夢を見るために。

INFORMATION
 

『ラ・ラ・ランド』
Blu-ray &DVD  2017年8月2日(水)発売
発売元:ギャガ
販売元:ポニーキャニオン
 

小島秀夫が観た『ラ・ラ・ランド』

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