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小島秀夫が観た『ラ・ラ・ランド』

ラ・ラ・ランドはハリウッドの夢を見るのか?

2017/07/23

genre : エンタメ, 映画

note

ミュージカル映画の“衰退”とハリウッドが見る“新しい夢”

 ここは永遠の夢の国ではない。夢を叶えた二人を見て、私たちはそのことに気づかされる。だから映画の終盤で、エマ・ストーンを乗せた車は、ハイウェイを降りて、再びLAの街に入っていく。このシーンでは、冒頭のきらめく太陽はない。LAは夜だ。

 そこで見るのは、夢の国(LA LA LAND)の物語なのか、それとも物語(LA LA LAND)の見せる夢なのか。しかし夜はいつか明ける。Another Day of Sunがまた昇る。

 ハリウッドの夢の代名詞でもあったミュージカル映画は、1960年代の後半になると色褪せてくる。アメリカがベトナム戦争の泥沼に沈んでいくのと並行して、映画もアメリカン・ニューシネマ(New Hollywood)が台頭し始める。しかし、それは映画そのものの終わりを意味しない。

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 古き良きハリウッド映画を復興させ、夢に溢れた時代のアメリカに思いをはせるだけの映画ならば、私はこれほどにこの映画に引き込まれたりはしないだろう。ミュージカル映画が衰退しても、映画は新しい夢を見せてくれる。

© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

 夢のハイウェイから始まり、現実のLAを通過して、また新しい夢に着地する。

 今この時代に映画を作ること、映画を見ること。夢を見て実現すること。それらの甘さと苦さを映画で見せてくれたからこそ、私たちは何度でもこの映画を見たくなるのだ。これは、映画にしか表現できない、まぎれもない現代の夢についての物語である。これこそが夢見る力だろう。