ジョーダン・ボート=ロバーツ監督の『キングコング:髑髏島の巨神』は、これまで試みられてきたキングコング映画のリメイクでも、リブートでも、ましてや続編でもない傑作だった。映画のビジュアルイメージや表層は、『地獄の黙示録』と『キングコング』のミックスだが、実は大胆で野心的な、まったく新しい『キングコング』映画だった。この作品は、キングコング映画を成立させている条件を満たしていない。あえてその条件を外している。だからこそ、傑作になったのだ。

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“驚きの現出”を目指した過去の名作たち

 初期の映画の原型は、アクションとテクノロジーによって成立していた。これは現在に至るまで変わっていない構造である。

 ジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』がそうだったように、そもそも映画は誰も見たこともないものを見せるものだった。その驚きを現出させるために、常に最新のテクノロジーが使われる。一方で、キートンやチャップリンのように、生身の俳優によるアクションは、映画のストーリーテリングや驚きを見せるための柱だった(たとえば『マッドマックス:フューリーロード(怒りのデス・ロード)』は、最新のテクノロジーを駆使しながら、セリフも極力少なくし、アクション主体で物語を構成するという、映画の原型への回帰を志向した集大成的傑作だった)。

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 1933年に製作された『キングコング』も、テクノロジーとアクションによって成立している。

 誰も見たことのない巨大なモンスターのアクションを、ストップモーションアニメという映画のテクノロジーで見せたのだ。この驚異の映像を見たレイ・ハリーハウゼンや日本の特撮の父である円谷英二が、モンスターメーカーとして映画づくりをこころざしたのは有名である(ハリーハウゼンは、高校時代からの親友だったSF作家のレイ・ブラッドベリとともに特撮映画『原子怪獣現わる』を製作し、これはのちの『ゴジラ』に多大な影響を与えている)。

『キングコング』をひとつの出発点として、特撮怪獣映画、いや全てのSF・ファンタジー映画の技術は更新され、磨き上げられたのだ。

 その後の『キングコング』のリメイクも例外ではない。1976年のジョン・ギラーミン版では、当時はSFXと呼ばれた、アニマトロニクスや実物大のコングのプロップ、着ぐるみ(リック・ベイカーがスーツ・アクターをつとめた)などの技術が使われた。

 2005年のピーター・ジャクソン版では、いわゆるVFX(モーション・キャプチャーやCG)が多用された。オリジナル版の『キングコング』を観て映画を志したピーター・ジャクソンならではの作品で、オリジナル版同様に、1930年代が舞台になっている。

 ともに映画の原型に基づいて、新しいテクノロジーを駆使することでビジュアルのレベルアップを図っている。