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“ハリウッドの目論見”を背負ったジョーダン監督

 この映画には、もうひとつの隠れた挑戦がある。それはジョーダン監督のポジションそのものだ。ハリウッドは業界の活性化のために様々な試みをしている。そのひとつが前回の『ローガン』の記事で触れたように、マーベルやDCによるフランチャイズのユニバーサル戦略である。本作も2014年の『GODZILLA ゴジラ』に続く、ワーナー・ブラザースの「モンスター・バース」の第2弾という位置付けだ。さらに海外作品や過去作のリメイクや、才能ある新人監督の積極的起用などが、戦略としてあげられる。

 本作を撮るまで長編映画の実績が1本しかなかったインディーズ出身のジョーダン監督は、これらの目論見を背負わされた。西洋文明を活性化させるためにニューヨークに連れてこられたキングコングと同じである。これまで多くの監督が、同じ役目を期待されたが、すべてが成功を収めているわけではない。直近では、『スター・ウォーズ』のハン・ソロ主役のスピンオフ作品を手がけていたフィル・ロード&クリストファー・ミラー監督の中途降板が発表された。フィル&クリスは、傑作『LEGO®ムービー』や『くもりときどきミートボール』など作家性の強い作品で評価された監督である。「クリエイティブの相違」を理由に『アントマン』から降板したエドガー・ライト監督の例や、デビュー作『クロニクル』が評価され、マーベルの『ファンタスティック・フォー』に抜擢され、完成にこぎつけたが制作過程で疲弊してしまったジョシュ・トランク監督など、幸せな結末を迎えられなかったケースはいくつもある。

 一方では、長編2作目ながら『ワンダーウーマン』を大ヒットさせた女性監督パティ・ジェンキンス(『モンスター』)のような例もあるのだから、才能ある新人の起用は止められない。

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ハリウッドの生態系に取り込まれない「成功」

 映画業界に限らず、才能ある新人にチャンスを与えるのは、今に始まったことではないし、当然のことだ。しかし、現在のハリウッドではいささか事情が違う。フランチャイズ戦略による映画のユニバース化は、作品の量産が必然であり、それが才能ある新人監督の取り合いを加速させているのだ。才能を育てるというよりも、消費するという傾向になることは否定できないだろう。

 現在でも『スパイダーマン:ホームカミング』にジョン・ワッツ(『コップ・カー』)、『ジュラシック・ワールド』続編にJ・A・バヨナ(『インポッシブル』『怪物はささやく』)など、気鋭の監督が起用されている。彼らの作品がどんな結果を生むか注目したいが、いずれにせよ、ハリウッドが業界の延命と映画の活性化を目指す限り、この流れは止まらないだろう。

 そこには当然ながら光と影がある。ニューヨークのキングコングのようにハリウッドに消費されてボロボロになる者、成功をつかんで次のステップを踏む者。

 ジョーダン・ボート=ロバーツ監督は、現在のハリウッドのシステムに消費されずに、作品を成功させた。髑髏島にとどまり、ニューヨークに来なかったキングコングは、彼自身のことでもあるのだ。彼はハリウッドの生態系に取り込まれず、髑髏島というインディーズの生態系を生かすことに成功したのである。

©2017 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.,LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS,LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.ALL RIGHTS RESERVED
INFORMATION

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