アカデミー賞の授賞式が近づいてきました。発表は日本時間の2月27日。今年はすでに、『ラ・ラ・ランド』が歴代最多タイとなるノミネート数で話題です。部門でいうとこれまでは14が最多ですが、『ラ・ラ・ランド』は歌曲賞で2曲がノミネートされているので、13部門。これ、賞をあげる気がなかったら、わざわざ同じ映画から選ばないと思うので、この2曲がダブル受賞かなと予想しています。これまで14部門でノミネートされたのは、1950年の『イヴの総て』と、1997年の『タイタニック』。この2作と同数のノミネートとは、それだけでもすごいことです。
先日、来日したライアン・ゴズリングにインタビューする機会がありました。1月にはゴールデン・グローブ賞の「コメディ/ミュージカル部門主演男優賞」を受賞し、そしてアカデミー賞ノミネートの発表直後ということもあって、取材媒体の数が多い多い。そのため、ゴズリングは分刻みの取材の百人組手みたいになってました。
映画『ラ・ラ・ランド』はミュージカルです。売れないジャズピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と、女優志望ながらオーディションで落ちてばかりいるミア(エマ・ストーン)。恋に落ちた二人の、恋愛と仕事の行く末が描かれます。ただ恋模様を描くだけではなく、男女とも自分の理想である仕事を追求しているのが、この映画の大事な点です。
近年もミュージカル映画は作られていますが、本作は1930~50年代の黄金時代を彷彿とさせる、古き良きミュージカル映画へ真っ向から取り組んだ作品です。現代を舞台としながらも、ハリウッドの贅を尽くした演出と、メロディが感情に響く曲。主演の二人が軽妙にダンスと歌をこなすだけではなく、人間ドラマで見せる機微が胸に迫ります。
黄金期ミュージカルへのオマージュにも注目
元々、黄金期のミュージカル映画で人気を博した俳優である、フレッド・アステアやジンジャー・ロジャース、ジーン・ケリーはダンサーから出発しています。特にアステアの驚異的な動きは、巡業のヴォードヴィル出身という身体性を駆使したものでした。そして彼らがダンスだけでなく、演技にも秀でていたのがミュージカルの一時代を築いた凄みです。
その後、有名どころでは『ウエスト・サイド物語』(61年)が『ラ・ラ・ランド』同様、俳優がミュージカルに挑戦した作品です。『ラ・ラ・ランド』でミアがルームメイトとパーティーに出かけるシーンは、本作にオマージュが捧げられています。
ちなみに『ウエスト・サイド物語』のオープニングは、覚えていらっしゃるでしょうか? 5分間近く、不思議な縦線が入っただけの画面が、クレジットが出るでもなく、時折色を変えるだけという前衛すぎるタイトルデザイン。5分って長いので、説明もなしに色しか変化のない映像を見せられ続けるのは、ものすごく不安な気持ちになります。デザイナーはソウル・バス。エンドクレジットのデザインも秀逸です。
アカデミー賞候補作は意外とまだ日本未公開
今年のアカデミー賞でもうひとつ話題になったのは、人種的マイノリティがこれまでより多くノミネートされたこと。近年、白人にノミネートが集中しているという批判がアカデミー賞に向けられていた反動もあるでしょう。そして黒人社会を描いた良作が多い、当たり年だった必然もあります。ただ、女性は多分野で活躍しているにもかかわらず、ノミネートされることはまだまだ少ないです。映画の力仕事の現場には、進出しづらくて層が薄いというのが根底にあるので、女性同士で競い合えるくらい、活躍できる厚みが欲しいです。
それから、ノミネートされて話題になっている映画も、日本では未公開が多いのが実情。『ラ・ラ・ランド』がアカデミー賞授賞式の、ギリギリ直前に公開されるくらいです。それ以外の作品は、作品賞ノミネートの『最後の追跡』がNetflixで配信されている以外、春以降の公開です。メリル・ストリープが主演女優賞ノミネートの『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』や、撮影賞でロドリゴ・プリエトがノミネートされた『沈黙 -サイレンス-』など、公開済の作品もありますが、大一番の作品賞は、できれば早めに公開してほしいものです。
でも宣伝が始まり、チラシに「本年度アカデミー賞本命!」と書かれた作品が、かすりもせずに終わったりすることもあり、虚しい惹句に冷え冷えした気分になったりもするので、そういう無惨さは避けられたら良いんですけどね。