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「野望? ジブリみたいになりたいんですよね」

2020/03/10
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「野望? ジブリみたいになりたいんですよね」

 長いトンネルから抜け出せたのは、翌2013年、メジャーデビュー作となったシングル「サンタマリア」をつくったのが契機だという。このとき、中学以来となるバンドでの共同作業に挑んだ。リリースに際し、これまでは他人と意思疎通する必要がなく、楽だから1人でつくってきたが、《この先、音楽と向き合う上で楽な方法を続けるのは健全じゃないし、卑屈な所に閉じこもらず前を向きたいと思った》と決意を表明している(※4)。

2013年メジャーデビュー作となったシングル「サンタマリア」

 彼のなかには自分が「普通ではない」という思いも強くあった。そのために学校では常に居心地の悪さを覚えていたが、学校に行かなくてよくなったら、普通ではない自分もそのまま受け入れられた。しかし気づけば、自分のまわりには誰もおらず、生きる意味がまったく見いだせない状況に陥ってしまった。だから《自分が普通になって、幸せに暮らすためには、“サンタマリア”を作って、普遍的な音で、普遍的な言葉で、何かを表現するっていうものしか残ってなかったんですね》という(※2)。このときだけでなく、米津は「普通になりたい」「普遍的なものをつくりたい」とことあるごとに口にしてきた。そこでよく例にあげたのが、宮崎駿監督の作品をはじめとするスタジオジブリのアニメ映画だ。インディーズデビューした時点のインタビューでも、将来への野望を訊かれ、次のように答えていた。

《野望? ジブリみたいになりたいんですよね。ジブリ作品って本当に間口がものすごく広くて、それこそ小学生とかでも楽しめる映画だと思うんですけど。それでいてすごい掘り下げていくことができると思ってて。そういうのが作りたいんですよね。入り口がものすごく広いんだけど、気が付いたら入った時には全然持ってなかったようなものをいろいろ持っていたみたいな。(中略)ものすごく難しいことだと思うんですけど。それがでも世界一美しいと僕は思うんですね。だからそういうふうなものを作りたいですね》(※5)

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