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「久しぶりの消息が死の知らせでした」ニューヨーク在住の叔母が犠牲に……親族が語る“進まない死後の手続き”

NYで親族を亡くした徳永克彦さんに聞く「医療崩壊の先」 #2

2020/05/08
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 父たち4弟妹は、祖父の仕事の関係で台湾に生まれました。終戦後、一家は東京に戻ったのですが、叔母ひとりだけ台湾に残り、蒋介石総統の通訳をしていました。

 やがてニューヨークで生活を築いていた叔父を頼って渡米し、現地で知り合った義叔父と一緒になったのですが、子供はおらず、二人だけの生活を続けてきました。その彼女の久しぶりの消息が、死の知らせだったというわけです。

施設でクラスターが発生した

 そこで私は英語が不得手な従兄弟に代わり、叔父に続き叔母夫妻の死後の手続き一切を担うことになりました。

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医療現場を支援するため、海軍病院船も派遣された ©AFLO

 まず私は、叔母夫婦の顧問弁護士に連絡を取りました。どこで感染したのかと訊くと、どうも介護施設で発生したクラスターによるものらしい。また、寝たきり状態の長かった叔母ですから、義叔父は弁護士と相談して、すでに「プライ・アレンジメント」(葬儀の手配)を済ませてあるという説明を受けたのですが、詳細まではわかりませんでした。

 いずれにせよ、新型コロナウイルス騒動でニューヨークは外出禁止の非常事態ですから、葬儀までの手続きは叔父のときと同様、血縁者がやるほかありません。

ニューヨークに火葬場は4個所だけ

 ところが、いま病院も役所も非常にレスポンスが悪く、電話をしてもたらい回し状態です。たとえば、叔母の部分名義になっている日本の不動産を処分するには彼女の同意書が必要なのですが、当人の叔母は亡くなっているため、日本の従兄弟はニューヨークの裁判所に執行許可申請書を提出したんです。しかし、裁判所は現状、緊急事態のとき以外開いていません。現在のニューヨークは通常の行政機能がかなり制限されている状態なんですね。

ニューヨーク市庁舎 ©iStock.com

 私の方では火葬場に当たってみたんですが、ニューヨークには何と4個所しかなく、この状況下ではまったく空いていません。そもそも土葬が慣習であるからなんでしょうが、1日に遺体を火葬する能力は1個所で最大100体なので、ニューヨーク市全体では400体が限度だそうです。

 特に感染症犠牲者には火葬が求められていますが、ニューヨーク市の死者数から見て完全に処理能力を超えてしまっています。今はニュージャージー州やコネチカット州の火葬施設まで動員している状態だそうです。