昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

山本 一郎
2017/08/24

「中国が台頭して、競争に負ける」とはこういうことだ

酷いんだけど、それが経済なんですよ

 加計学園だ森友だと騒いでいる日本ですが、国内ですったもんだしている間に、中国では自国の統治に都合の悪い海外の研究論文を撤回させるよう要求する問題を起こしました。英名門大学ケンブリッジに「文化大革命、天安門事件、中国外交から中国の辺境問題であるチベット、新疆、香港、台湾などに関する300本の論文・書評を削除するよう要請」とのことで、しかもケンブリッジ側が応じたような報道まで出てきてカオスであります。

 世界的な常識からすれば、中国共産党は文化大革命であれだけ人が死んだことについて、それこそ歴史認識としてちゃんと向き合えばいいのにと思うわけですけれども、そのころの政権が正統性と継続性をもっていまなお続いているということは反省のしようもないということなのでしょうか。なんか大変だな中国人。経済ではいくらでもご都合主義なことはできても、政治ではあんまり妥協ができないみたいです。っていうか、共産党なのに資本主義の権化のような市場経済を曲がりなりにもきちんと制御してここまでの経済大国になった、というのは中国すごいなと素直に思います。

ケンブリッジ大学 ©getty

中国と付き合うことと、食べていくことの悲哀

 そういう経済力をバックボーンにして、中国の考える価値観を実現するための外交や交渉、圧力をかけるのが一般化しているようで、かねてから日本もアジア極東外交のなかでもいろんな面倒くさい歴史認識カードその他、戦争の贖罪意識を散々利用された経緯はあります。イギリスも、まあだらしないと言われればそうなんでしょうが。香港で広がった雨傘運動などの民主化デモに加担した香港市民の若者たちが訴追され、ついには実刑判決を受けてしまうという文字通りの言論弾圧を中国がやらかしていることについて、あまり表立った抗議や制裁を中国に対して実施した経緯はありません。なんといっても、なんだか良く分からないブレグジットだかでこれといった目論見もなく突然EUから離脱しちゃうもんだから、経済の先行きが不透明で中国の経済的影響力を無視できなくなってるんですよね。

 なんというか、食べていくことの悲哀ってあるじゃないですか。日本人の人生の中にも、経済的事情があるから会社にしがみつく中高年サラリーマンの後ろ姿が煤けているなんてことはたくさんある。デキは悪いけど本人なりに頑張ってそこそこの私立大学に入学できて、喜んではみたものの、学費の支払い負担を考えると老後の資金が心配だとか、うっかり郊外に家を建ててしまってローンがとか、そういう「将来が不安な人たち」は、少なくとも自分よりも金がありそうで未来のあるところにガッチリ食い込むしか方法がないのです。肩を叩かれようがギャラが下がろうが、わずかばかりの退職金の上積みで冷たい世間に放り出され、しばらく書いたこともない履歴書を何枚も書きハローワークに行って面接を受け自尊心を木っ端微塵にされるよりは、やってきた仕事を続けて会社にしがみつきたい。それが安定であり、幸福ではないかもしれないけど少なくとも不幸ではない。そういう働く者の悲しさと、成長を続けて傲慢になる中国と付き合う日本を含む諸外国の忸怩たる想いとが交錯するわけであります。