近年、日本では広東省深セン市の評判がうなぎのぼりだ。ファーウェイやZTE・テンセントなど名だたるIT企業が本社を置く、中国有数のハイテク都市。IoTやドローンといった現在流行の分野で成功しているベンチャー企業も多く、未来の中国を担うイノベーション都市として注目されている。

経済特区の深淵を見せる巨大スラム街

 深センはもともと、香港に隣接する経済特区として整備された新しい街で、ここ40年間の中国経済の発展を象徴する場所である。一人あたりGDPが国内主要都市で1位の金持ち都市だけに、物価も中国国内ではかなり高く、市内で普通の衛生的なランチを食べれば日本より高くつくことも珍しくない。

 だが、この街はもうひとつの顔を持つ。市の北部郊外の一帯には、広大な工場地帯とそれに付随する巨大なスラム街が広がっているのだ。こうした傾向は以前からあったが、近年の深センがイノベーション都市として台頭し、国内外に向けてクールでスマートなイメージを漂わせはじめたことで、ギャップの大きさがより目立つようになった。

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 この地域の人々の生活水準やライフスタイルは、わずか5~10キロ向こうの市内に住む都市市民たちとは隔絶している。その中心地となっているのが、日雇労働者の雇用仲介市場がある龍華新区の「三和人力市場」周辺の一帯である。

 三和人力市場の付近には、シャープの買収で有名になった台湾メーカー・ホンハイ(フォックスコン)の大工場のほか多くの工場が並び、路上には臨時労働者や失業者、ヤミの職業仲介業者などがあふれている。いわば、日本で見られる「日雇い労働者の町」(ドヤ街)の中国版とでも言うべき地域である。

現地を紹介する中国のネットニュース。タバコが1本5角(約8円)でバラ売りされる街の住人たちだが、スマホは持っている(http://dy.163.com/wemedia/article/detail/BIR8IKLL052192PG.html

サイバー・ルンペンプロレタリアート

 ただし、日本のドヤ街とは異なり、三和で生きる労働者たちは多くが20~30代の若者だ。彼らはドヤ街でその日暮らしの毎日を送っているが、いっぽうで安価な娯楽であるスマホ・パソコンのインターネットゲームとの親和性が非常に高い。ネトゲ(オンラインゲーム)で遊び続けるために日雇い仕事でわずかなカネを稼ぎ、数日遊んでからまた日雇い仕事に戻り……といった日々を送る人も多く、いわばサイバー・ルンペンプロレタリアートとでも呼ぶべき存在だ。

 近年、彼らは中国のネット上で「三和ゴッド」(三和大神)と呼ばれている。一説には、人数は数千人から数万人にのぼるともいう。彼らの刹那的な生活については、すでに報道もなされはじめてきた。例えば以下のような記事だ。

「三和人力市場という中国版サイバーパンク地帯」(『新浪遊戯』2017/5/4)
http://games.sina.com.cn/g/f/2017-05-04/fyeycte8582792.shtml

「深センの不思議集団『三和ゴッド』。1日の消費はたった15元で、大学生になる夢を見ながら自堕落な生活を送る」(『網易訂閲』2015/12/28)
http://dy.163.com/wemedia/article/detail/BIR8IKLL052192PG.html