9月1日から30日までの1カ月間、日本有数の売り場面積と書籍数を誇る東京池袋のジュンク堂書店池袋本店で、認知症の当事者が書いた本を集めたブックフェアが開催中だ。連日たくさんの人がフェアの会場を訪れ、認知症の人が書いた本を手に取っている。なかにはうんうんと頷く人、うっすらと涙目になっている人もいる。
“認知症の人が書いた本”が相次いで出版されている背景
“認知症の人が書いた本”と聞いて、違和感を感じる人もいるかもしれない。「認知症の人に、本を書けるはずがない」と。まさに、そうした見方、認知症の人には何もできないという偏見、誤解をなくしていくこと。それが、このブックフェアの狙いだ。
実は、今年に入ってからだけで7冊もの「認知症当事者が書いた本」が出版されている。いま、こうした本の出版が相次ぎ、フェアまで開かれる背景には、何があるのだろうか。
いま、65歳以上の認知症の人の数は約500万人、高齢者の7人にひとりが認知症ということになる。
かつて、認知症=人生の終わり、と考えられてきた。認知症になったら、何もわからなくなり、周囲に暴力をふるい、徘徊を繰り返すようになる、と。しかし、実は、こうした認知症の人のイメージは、メディアや医療・介護の専門職らによって、つくられてきたものに過ぎない。いま、認知症の専門クリニックには、ひとりで相談に訪れる人が多いという。決して、認知症=絶望ではないのである。
先に認知症になった私たちから仲間たちへ
今回のブックフェアに並んだ本の一冊『認知症になっても人生は終わらない―認知症の私が、認知症のあなたに贈ることば』は、NHKの番組がもとになってできた本だ。私も携わった2015年12月、NHK総合テレビで放送された特集番組「わたしが伝えたいこと~認知症の人からのメッセージ~」。このとき、10人の認知症の人が番組の収録に参加したほか、NHKが行った「本人の声」募集に応じて、100通ものメール、FAX、それに封書やはがきなどの手紙が届いた。それらをもとに出版されたのが、『認知症になっても人生は終わらない』だ。
本書の特徴は、「先に認知症になった人」から「認知症になって絶望している仲間」へ向けて書かれた本だということだ。本書に寄稿した人たちは、みな、認知症と診断されたあと、長く苦しい絶望のトンネルを抜け、その先の人生があることに気づき、いまを生きている人たちだ。皆、「なぜ、診断後に絶望の期間を過ごさなくてはならなかったのか」ということに強い疑問を感じていた。そんなことはおかしい。これから認知症になる人に、同じ思いを味わって欲しくない、と、考えていた。
その思いは、本書の冒頭にある、手書きの短いメッセージに込められている。とても短い言葉だが、本質をついた言葉の数々だ。まずは、それをご紹介したい。