『男子劣化社会』(フィリップ・ジンバルドー ニキータ・クーロン 著 高月園子 訳)

 常日頃から、私はブツブツ言っている。女といっても今時嫁入り修行だけをしていては尊敬されないし、かといって職場に残れば今でもお局負け犬売れ残りのレッテルを免れないし、そもそも女性で順調に出世というのもやや非現実的なままである。

 米心理学者による本書は、そんな私の文句に対して、男の方がさらに深刻な状況にあると示唆する。性から、あるいはもっと広く社会から自分を遠ざけ、ゲームやポルノにへばりついたまま社会生活を循環させてしまう。そもそもなぜ男が情けなく劣化の途を辿っているのか。その原因について、米の臨床現場における薬物療法の現状やポルノによる生殖機能が鈍る作用などトリビアルな研究結果を網羅的に紹介し、解決策を提案するまでが本書の主題である。

 ユニークなのはゲーム、学校、ポルノ、ネット、などの劣化加速装置の列挙に続いて「女性の隆盛?」という章が設けられていることだ。確かにかつての男らしさは女に代替可能であることが証明され、特権は乗っ取られ、役割が曖昧になり、しかしいまだ女性は攻撃的な俳優にドキッとしたまま、当然デート代の割り勘にも否定的である。男女双方に染み付いた家父長制の匂いと、正しく優しくあろうとする今時の男の相性が悪いのは当然で、長くこの世を窮屈だと思っていた女性としてはその身の置き場のなさはちょっとわかる。

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 窮屈な男らしさや女らしさからの解放が私たちにありえないほどの選択肢を用意したのは間違いないが、その先にあったのが、寄りかかるものをなくしてひたすらスマホの中に逃げ込む男の姿であったとしたら、それはちょっと笑えない。こちらも色々とアンビバレンツな方向に突き進むのに忙しいので、救ってあげようなんて思わないが、終章の一文はとても刺さる。「男性が女性たちの問題に無関心だったように、今、勢いづいている女性たちが男性たちの問題に無関心なら、それは進歩とは言えない」。

Philip Zimbardo/スタンフォード大学心理学名誉教授。米国心理学会会長など歴任。他著に『ルシファー・エフェクト』など。
Nikita D. Coulombe/ジンバルドーのアシスタントとして、数々のプロジェクトに参加。

すずきすずみ/1983年東京都生まれ。日経新聞記者を経て作家に。近著に『愛と子宮に花束を』『おじさんメモリアル』がある。

男子劣化社会

フィリップ・ジンバルドー(著),高月園子(翻訳)

晶文社
2017年7月12日 発売

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