日常を補完する「ファンタスティックな出張」
出張先で口が固くて尻が軽そうな都合の良い女とたまたま知り合い、なぜか都合よく二人で飲むことになり、なぜか都合よくエロい雰囲気になって、なぜか都合よく一夜をともにし、その後トラブルになることも奥さんにバレることもなく日常に戻る。バカみたいだが、これがなかなかおじさんたちにとって夢のある話だというのはよくわかる。というかそんなファンタスティックな出張、私だってしてみたい。
そういった鼻の下の長く脳みそが少ないおじさん方の夢を愚直に表現したサントリー「頂(いただき)」のウェブ限定コマーシャル動画が発表からわずか1日で謝罪文とともに消えたのは記憶に新しい。こんな時代にしては挑戦的な内容だった割には、ちらほらと批判されたくらいでさっと取り下げたので「そもそもただの炎上狙い商法じゃないの」という嫌疑はかけられているものの、一応本気で怒っていた人もいるようだ。怒りの内容は大体次の通りである。
(1)「コックゥ~ん!」という商品コピーが「ごっくん(AVや風俗業界において精子を飲むこと)」「コック(英語でちんちん)」「イクゥ~」などエロ用語を意識しており、卑猥だ
(2)「肉汁」「しゃぶる」などの表現も下ネタを想起させる
(3)出張先での不倫に肯定的である
(4)出張先で出会ったと思われる女性が男性の妄想そのままで男に都合が良く侮辱的である
(5)老若男女に開かれるべきビールを男のものと決め込んでいるところが前近代的だ
(6)登場する女の服装や声、言葉遣いが男ウケを狙っていて気に入らない
さて、銀座でバイトしていた時に、営業を兼ねて飲みに来るサントリーの社員で一人すっごくお気に入りの男がいたとかいうことは別に関係なく、サントリーの味方をするわけでもないが、(1)と(2)は単純に言いがかりである。彷彿とさせるのはもちろんわざとだろうが、直接的に卑猥な単語を言わずに卑猥なことを想像させるのは自由だ。こんなことに目くじらを立てる人はそのうちフェラーリやフェラガモは子供の目に触れさせてはいけないとか言い出しそう。靴下をソックスと言ってはいけないとか。白い液体は卑猥だから牛乳もカルピスも商品画像をCMで流すのは自重した方がいいとか。
(5)もまた結構どうでもいい話である。ビールがおじさんのものだとも思わないが、そもそもこの「頂」の商品説明を読むと基本的なウリが「コク」「高炭酸」「後味のキレ」の第3のビールである。つまり例えば第3のビールであってもウリが「プリン体オフ」とか「糖質オフ」ならまだしも、味がウリの、つまりはビールが買えればできればビールを買いたいが、節約して第3のビールにしとこう的な人向けの飲み物であってそういった人は大体くたびれたおじさんである。