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「みんな将棋をどうやって観ているの?」会議

「みんな将棋をどうやって観ているの?」会議

楽しみ方は自由だ!

2020/10/13
note

昔にくらべて、解説はすごくわかりやすくなった

――普段の解説は、どれくらいの棋力の方を想定してされるのですか?

高野 基本的には5級くらいを対象にしていますね。昔にくらべて、解説はすごくわかりやすくなったと思います。ただ終盤は、ある程度、難しいことを言わないと仕方ないので、ここは観る方の棋力ももう少し必要になるでしょうか。

――投了図以下がわからないことも多いです。

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高野 アマチュアの人にとって投了図以下がわからないのは普通のことですよ。実は僕もたまにわからない(笑)。「えっ? 投げちゃうの?」って思うことはあります(笑)。

――ちなみに投了図以下、全部わかる人はどれくらいの棋力ですか?

高野 プロですね。あれが全部わかったらプロですよ(笑)。

――あと、解説の先生が「6二角、1四歩、3四銀……」などと符号だけでその先の指し手を示すことがありますよね。あの符号だけで指し手がわかれば、どれくらいの棋力ですか?

高野 符号だけで、5手でも脳内で進められたらすごいと思いますよ。二段、三段でも難しいかもしれませんね。四段以上必要かもしれません。それくらい難しいことです。

「(藤井聡太二冠のデビュー時に)性能の良いマシンが参戦すると聞き、 フェラーリやベンツを想像していたら、 ジェット機が来た」などユニークな表現でも知られる高野秀行六段 ©文藝春秋

――「評価値」についてはどういうご意見ですか?

高野 誰でも形勢がわかるようになって、観る将の人が増える要因になっていると思います。ただ、そこまでの差があるとは思えないなということがよくありますね。数字がすごく離れているから、ひっくり返ると「大逆転」と思われるかもしれませんが、そんなことはないというケースも少なくありません。

――あれは「詰み」が生じたら絶対に間違えないAI同士の対局ならば意味はあるけど、人間同士では、なかなか数値通りにはいかないと。

高野 そういうことですね。詰みが生じると「99対1」となりますが、詰まさないと
逆に「1対99」になってしまう。人間の戦いではよくあることです。

――では評価値にも改善の余地はあると。

高野 理屈としては正しいかもしれませんが、それがすべてではないです。「人間の感覚では+300点ぐらいですね」という解説も多くなるのではないでしょうか。

「観る将」といえば、毎日のようにトップ棋士同士の将棋を楽しんでいる人種だ。将棋を観ることで将棋は強くなるのだろうか。そんな素朴なことも聞いてみた。

――将棋というのは、観るだけで強くなるものですか?

高野 もちろん観ることで強くなりますよ。ただ、今のトップの将棋を観るだけで強くなるかといえば少し疑問ですね。手が難しすぎて、僕にもわからないところがありますから。

――なるほど。

高野 私、ゴルフ好きなんですが、男性プロのスイングを見てもあまり参考になりません。あんな風にできないですから。それよりも女子プロとか、YouTubeなどでスイングを上げている上手なアマチュア女性のスイングのほうが参考になります。