文春オンライン

検事の取り計らいで妻と取調室セックス…平成最大の猟奇事件の捜査過程はなぜ不可解なのか

2020/10/22

genre : ライフ, 読書, 社会

note

風間は関根と離婚し、別居していた

 山上の妻は、浦和地裁でこう証言している。夫が帰ってこず、会社に電話して出社していないことを確かめた4月21日、犬の売買のトラブルがあったのを知っていたので、アフリカケンネルに電話した。電話に出た風間は、あっさりと関根がポッポハウスにいることを伝え、電話番号を教えた。山上の弟がポッポハウスに電話すると、中岡も関根ものらりくらりとした受け答えをした。業を煮やした山上の兄弟らは、車でポッポハウスまで行ったが、出先から車で帰ってきてそれを見た関根と中岡は、その場から逃げ去っている。

 居場所を教えたということを、風間は関根に伝えなかったのだ。そんな共犯者がいるだろうか。

 この頃、関根はポッポハウスで暮らし、風間は熊谷の元から住んでいた家で、子どもたちと暮らしていた。1993年1月、籍を抜き、風間は関根の元妻となり、別居していたのだ。

ADVERTISEMENT

 離婚のきっかけは、92年暮れ、アフリカケンネルに税務調査が入ったこと。不動産名義を風間に移して離婚したほうがいいという弁護士のアドバイスを受けて、風間は離婚を切り出し、関根も了承した。しかし、それまで風間の連れ子である長男は、手を切り落とされそうになるなどの虐待を受けており、風間自身もひどい暴力を受けていたので、風間側は本心から別れようとしていた。

©iStock.com

 この頃、関根は友人であった高城に「離婚してこのままだと、自分の手元には残るものがない」と漏らしている。税金逃れの偽装離婚と思い込んでいたが、風間は本当に離婚しようとしていると気づいたのかもしれない。

 共犯という軛で、風間を再び自分の支配下に置こうとしたのではないか。犯行を完全にコントロールできるシリアルキラーなら、その性格を熟知している風間が現場に来ても、言いなりにさせることができると考えたかもしれない。

「真実は今でも分からない」

  遺体の解体の際に、風間が中村美律子の「大阪情話」を口ずさんでいたと中岡は供述している。だが中岡が事件のことを書いた手記を読むとそれは、同じ中村美律子であるが「河内おとこ節」だ。その違いを中岡に質すと、こう答えた。

「博子が演歌を歌ってたなんて、ありゃあ嘘だからね。そういうふうに書かなきゃ、おもしろくないでしょ。ノンフィクションみたいにはなってるけど、あれは小説だから」

『実録ドラマ 3つの取調室 ~埼玉愛犬家連続殺人事件~』番組公式HPより

  風間は殺人における無実を訴えて、再審請求を行っている。第1次再審請求は、警察の監視記録にある車の動きが風間の供述に一致し、中岡の供述とは矛盾するという内容だ。これは警察官の見落としだとして、最高裁で棄却された。現在、第2次再審請求が進行中だ。

「真実は今でも分からない」

 水野美紀演じる女性刑事は、ドラマの最後に呟いた。最高裁で判決が確定したとはいえ、事件の真相が明らかになっているとは、とても言えない。

検事の取り計らいで妻と取調室セックス…平成最大の猟奇事件の捜査過程はなぜ不可解なのか

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー