新宿歌舞伎町の通称“ヤクザマンション”に事務所を構え、長年ヤクザと向き合ってきたからこそ書ける「暴力団の実像」とは――「潜入ルポ ヤクザの修羅場」(文春新書)から一部を抜粋する。(全2回の1回目/#2に続く)

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バルコニーから聞こえてきた“ただならぬ音”

 その日、新宿に雪が降った。

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 午前零時過ぎ、取材を終えて歌舞伎町××××マンション623号室の仕事場に戻ると部屋は冷え切っていた。エアコンの暖房を最大にしてコートを脱ぎ、綿入り半纏を羽織る。電熱ヒーターで足下を温め、コーヒーメーカーをセットし、一服して机に向かった。ゆっくりしている暇はない。朝までに広域組織二次団体幹部のインタビューを仕上げねばならない。

 パソコンを立ち上げ、数時間前に録音した質疑応答を聞き返しながらキーボードを叩いた。テープ起こしと呼ばれる作業を3、4時間して一段落付き、コーヒーを飲もうと立ち上がったところ、バルコニーで「ドッタン、バッタン、ゴロン、ガスッ」とただならぬ音がした。

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 バルコニー側の壁面は60度ほどの斜面になっている。手すりから体を乗り出すと下のバルコニーが丸見えで、上のバルコニーは当部屋の天井だ。部屋の間近で音が止まったため、なにかが落下してきたのだろうと思った。これまでも布団や洗濯物が落ちてきたことは何度もあった。

 バルコニーに出て辺りを確認した。かなり大きな音だったので相応のモノであるはずだが、落下物は見当たらない。

鉄柵に突き刺さっていたのは……

〈雪の重みで雨樋が外れたのか?〉

 見上げても、それらしい箇所はなかった。

〈いったんバウンドして下に落ちたのかもしれない……〉

 桟につもった雪を袖口で払い、凍えながら真下を覗いた。眼下の光景をみて私は完全に凍り付いた。

 バルコニーの左右を仕切る鉄柵には、泥棒よけのため、鋭利な槍状の棒が数本、空に向かって飛び出している。真下――5階にあるその鉄柵に、みるからに暴力団風の男が突き刺さっていたのだ。

『13日の金曜日』のようなスプラッターな光景を目の当たりにして、数秒思考が停止した。頭が動き出して最初に思ったのはカメラを取り出し、この惨劇を写真に撮るかどうかだった。不謹慎ながら絵の迫力としては第一級なのだ。背中から鉄柵に刺さり、天を仰いでうなだれた男。四肢はだらりとぶら下がり、服は血みどろで、1本の槍が体を貫通している。これ以上ないベストポジション。加えて警察も救急隊も到着していない。間違いなく売れる。それも高く。

 逡巡を遮ったのは、死んでいると思った男がうめき声を上げたからだった。声を聞いた途端、俗っぽい悩みは頭から吹っ飛び、反射的に体が動いた。119番して救急車を呼び、続けて110番通報すると、部屋を飛び出し廊下を走った。エレベーターに乗って靴を履いてないことに気づいたが、2階にある管理人室が先だった。