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編集者が「仕事は辞めないで」と新人賞作家に伝える理由…一つは「収入の確保」のため、もう一つの意外な理由は?

『書きたい人のためのミステリ入門』より #2

2021/01/02

genre : エンタメ, 読書

note

とにかく最後まで書き切る

 そしてもう一つよくされる質問が、「デビューするために、もっとも大事なことは何ですか」というものだ。

 これはもちろん、「面白い作品を書くこと」なのだが、そんなことは当たり前なので、その一歩手前を考えたい。どんどん原稿を書いて、ガンガン投稿しているような人は読み飛ばしてくれて構わない。

 複数の作家が、同じような質問を受けた場面を目にしたことがあるが、異口同音に答えていたのは、「まず、一つの作品を最後まで書き上げること」だった。なるほど、と思うし、その通りだとも思う。

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 長編であれ、短編であれ、一つの物語を最後の一行まで書き切るのは大変なことだ。なんだかんだと途中で筆が止まってしまうこともあるし、「何をもって終わりとするのか」という判断は、実は結構難しい。

 構想を膨らませ、いざ書き始めたはいいが、書くにはどうしても一定以上の時間がかかる。書きかけのままになってしまった物語はないだろうか。仕事をしながら、学校に通いながら、毎日の空き時間を少しずつ積み重ねて執筆にあてるというのは、並大抵の根性でできることではない。

 そして、書いているうちに、「思うように話が進まない」ことや、「思うように上手く書けない」という局面は、必ず訪れる。

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 それでも、とにかく挫折せず最後まで書き切る。それが最初期の段階ではもっとも大切なことだ。

 また、面白い話を思い付いて、興奮のまま周りに話してしまうと、聞いてもらったことが「読んでもらった」という疑似体験につながって、それで満足してしまうこともある。これは、プロでも自戒している人がいて、「話すと書いた気になって、モチベーションが下がってしまう。とにかく書くから、できあがったら読んで」というスタイルで執筆する人もいる。

短くても一つの物語を書ききることに意味がある

 原稿用紙換算で400枚くらいの長編を書こうと思ったら、毎日10枚書いたとしても40日かかる。1日に10枚書くなんて、他のことをまったくせずとも、コンスタントに続けるのは容易なことではない。

 習慣的にコツコツ続けられるなら問題ないが、そうでない人は、まず短編を仕上げてみるといい。長くても短くても、一つの物語を書き切る、という点では同じだ。短くとも、自分の思うように書き上げられた経験は、大きな自信となるはずだ。

 短編を長くしたものが長編、というわけではないけれど、一度ゴールインした経験があれば、後は少しずつ距離を延ばすつもりで、長編にも挑みやすくなるだろう。