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死亡者は年間約2800人…日本で「子宮頸がんワクチン」が広まらなかった代償

2021/02/03
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96万回に1回、430万回に1回

 この間、ワクチン自体の安全性の検証も積み重ねられてきた。

「ワクチン接種後に生じた症状とワクチンの影響」を国内で検証したものとして、子宮頸がんワクチンの被害者連絡会が要望して名古屋市が調査を行った15年の「名古屋スタディ」がある。

 名古屋市の小学6年生から高校3年生のうち、ワクチンを打った少女と打たなかった少女計約7万人に「月経不順」「関節や身体が痛む」「身体が自分の意思に反して動く」など、被害者連絡会が提示した24すべての症状を調査し、得られた3万人のデータを解析したものだ。その結果、ワクチンを打った少女と打たなかった少女とで、各症状が生じる割合は変わらないことが判明した。

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 18年にはHPVワクチンに関する26件の臨床試験をまとめた「Cochrane(コクラン:英国発の科学的な医療情報を検証・発信する機関)」のレビューで、「15~26歳の女性における重篤な副反応のリスクが子宮頸がんワクチン接種で増加することは認められていない」と結論づけられている。

「名古屋スタディは疫学調査のため、個々の事例の因果関係までは言及できないという点は留意すべきです。しかし、同スタディの『ワクチンと接種後の症状に関連があるとは言えなかった』という調査結果は、コクランが示した事実を反映しているものと考えています」(八木氏)

上田豊講師

 現時点で子宮頸がんワクチンとの因果関係が推定されている副反応には「アナフィラキシー」や「ギラン・バレー症候群」がある。だが厚生労働省によると、それぞれの発症頻度は96万回に1回、430万回に1回だ。「これらはインフルエンザワクチンやほかの乳幼児に打つワクチンと比べて、発症の確率が特別に高いとは考えられていません」と、八木氏と同じ研究グループの上田講師は話す。

心理的影響が大きい慢性痛が残ることも

 ただし、子宮頸がんワクチンの接種にあたっては、「独特の痛み」や、稀ではあるが「失神」が生じることが判っており、厚労省も注意喚起している。筆者も接種した際に、筋肉注射のため重く痺れるような痛みがあった。痛みは時間の経過とともに消えたが、なかには1カ月以上過ぎても痛みを訴え続ける少女もいる。

 東京慈恵会医科大学附属病院ペインクリニックの倉田二郎教授が話す。

「検査しても痛みの原因が医学的に見つからない場合は心理的影響が大きい慢性痛が考えられます。実際の痛みより強く捉え過ぎていることがあり、治療は薬物療法や認知行動療法を組み合わせて行います」

倉田二郎教授

 認知行動療法は今でいうマインドフルネスと似た方法だという。痛みの程度を客観的に、ありのままに捉え直すことを目指す。

「近年、慢性痛については医師だけでなく臨床心理士や運動療法士らと連携し、カウンセリングや定期的な運動プログラムなど、集学的なアプローチで治療すると良い結果につながると明らかになってきています」

 厚労省は子宮頸がんワクチン接種後に生じた症状の治療を行う協力医療機関を全都道府県で選定しており、同院はその一つでもある。