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働きながら治療する。がん患者が選ぶ新しい流れ――岩瀬大輔社長インタビュー#2

『がん保険のカラクリ』(岩瀬大輔 著)著者が奔走した「がんアライ部」とは

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 働きながらがんを治療する。その潮流を進める団体「がんアライ部」が10月6日にスタートした。患者自身の声から3つのニーズを見つけ、その実現に向けて積極的に関わってきたのがライフネット生命社長の岩瀬大輔さんである。「がん保険」の選び方を年齢など具体的な数字から解説した#1に続き、#2はがん患者をとりまく環境の変化と実情を語る。

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『がん保険のカラクリ』(岩瀬 大輔 著)

がん経験者が語る「本当に必要なこと3つ」

 なぜライフネット生命が、がん保険を手がけることになったのか。

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 その背景には、がんの治療法と、がん患者と仕事をとりまく環境が大きく変わってきたことがあります。著書でも指摘しましたが、がん治療の現場では、入院日数が短くなり、通院による治療が中心になり、近年、その傾向が一層、強まってきました。

 また治療法の進歩にともない、重要な指標である5年相対生存率も上昇してきています。同時に、現在では仕事を続けながら治療を続けるがん患者さんが、全国に32.5万人もいるといいます。いまや「がんと共生する時代」になったのです。

 働く世代にとって最大のリスクの一つが、「がんなどの病気やケガのために働き続けることができず、収入が途絶える」ことです。そのリスクに備えられるよう、ライフネット生命では2010年から生命保険会社としては他社に先駆けて、個人向けに就業不能保険を提供してきました。この就業不能保険は、病気やケガで長期間働けなくなった場合に、毎月お給料のように一定額をお支払いするという保険です。

 その就業不能保険のお支払い実績をみると、お支払いの約6割が、がんを理由とするものでした。これが、がん保険を手がけるきっかけになりました。

 就業不能保険は、長期の入院や在宅療養など、病気やケガで長期間働けない状態の方を対象に設計された保険ですので、がんによる就業不能状態から回復されたお客様、がんと診断されても働きながら治療されるお客様にはサポートができません。「がんと共生する時代」に合った新たながん保険が必要だと痛感しました。

 とはいえ、がん保険は世の中にあふれています。今の時代に必要ながん保険はなにか。それを求めて600人ちかくのがん経験者へアンケートを行いましたし、実際にがんを経験された方々に集まってもらい、私も加わって何度も何度もディスカッションしました。

 その調査を通じてわかったニーズが3つあります。

 1つは、「がん罹患後の収入減少へのサポート」です。企業側の配慮で業務量を減らしたり、休職できることになったりしても、それは収入減少につながります。また、治療に専念するため、あるいは就業規則で許された欠勤日数を超過したため、退職せざるを得ない方も少なくありません。

 前に説明したように上限額を超えた治療費を国がサポートする高額療養費制度はありますが、そもそもの収入が減ってしまうと、治療が長引くにつれ治療費への不安が高まります。加えて、ご本人やご家族の生活費、住宅ローンなど、日々の生活にかかるお金への不安も生じます。この点を民間保険会社としてサポートする必要性がありました。

 そこで、私たちは、治療費だけでなく、がんによる収入減少や生活費もカバーする新しいコンセプトのがん保険を用意し、ご本人やご家族に本当に必要な保障を提供できるようにしました。この点が、もっとも工夫したところです。