ネット生保の経営者でありながら、『生命保険のカラクリ』『がん保険のカラクリ』(いずれも文春新書)を出版し、これまでベールにおおわれていた商品としての保険の仕組みや、保険業界の問題点を指摘してきた岩瀬大輔氏。

 その岩瀬氏が社長を務めるライフネット生命から、がん保険が発売された。そして岩瀬氏も加わり、がん罹患者が働きながらがんを治療することについて、職場の意識向上を目指す団体も設立された。

『がん保険のカラクリ』の著者が、なぜ、そうした取り組みに加わるのか。その意図を岩瀬社長に直撃した。

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『がん保険のカラクリ』(岩瀬 大輔 著)

『がん保険のカラクリ』をいまこそ読んでほしい

 2017年10月、職場における「がんと就労」にまつわるリテラシー向上を目的とした民間プロジェクト「がんアライ部」が発足しました。

 設立にいたったのは、2017年8月にライフネット生命が、がん保険を発売したことと関係しています。がん保険の設計を模索する中で大いに感じることがありました。

「がんアライ部」については後ほど触れますが、その前に、なぜ『がん保険のカラクリ』の著者が社長を務める会社から、がん保険を発売することになったのでしょうか。

 この『がん保険のカラクリ』というタイトルや、帯の「がん保険に気をつけろ!」というキャッチコピーは文春さんのアイデアでした。

 本のタイトルや帯のキャッチコピーだけ見て、あたかも私が、がん保険を否定しているかのように受け取られることもありますが、まずは、なぜこの本を上梓したのかをお話します。

ライフネット生命社長・岩瀬大輔さん。©近藤俊哉/文藝春秋

 実際に読んでいただければ分かりますが、本書ではがん保険をはじめとする医療保険分野に関して、生活者の皆さんに知っておいていただきたい情報や、主な保険商品のメリット、デメリットなどを丁寧に書きました。業界関係者からはさまざまな反応がありましたが、私としてはバランスをとって、がん保険や医療保険を検討する際に踏まえるべきポイントを中立な立場から示したつもりです。そもそも、この時期に当社はすでに医療保険の一部として「がん保障」を提供していましたので、がんへの備えの必要性を否定するはずはありません。

 2006年に、世界でも例のないインターネット販売の生命保険会社を出口治明氏と共に創業した私は、それまで生命保険業界でのキャリアがなく、いわば保険の素人でした。ただ、それだけに「保険業界の常識」と「お客様の常識」とのズレがよく見えました。そうしたズレや、お客様には十分に理解されていなかった生命保険の仕組み、保険業界の収益構造、業界構造などについて書いたものが、2009年に執筆した『生命保険のカラクリ』(文春新書)です。

 同じように、がん保険をふくめた医療保険のあり方についても問題意識を抱きつづけていました。

 いまや、がん保険などの医療保険は、死亡保険にかわり生命保険会社の主力商品となっており、その宣伝を目にしない日はありません。しかし、当時は涙を誘うような情緒的なテレビCMや、いたずらに不安をあおる広告が少なくなかったのが実情です。

 私も医療関係者から、「生命保険会社は、実際よりも医療費がたくさんかかると不安をあおっているのではないか」と、お叱りを受けたこともあります。

 また、偶然目にした文章を読んで驚いたこともありました。ある保険会社に勤務し、がん保険の支払い査定を担当する医師が、こう書いていたのです。

「『がん保険』が必要だ、と納得できる論理を、臨床医の経験から見出すことは困難である」

 実際、がん保険が広く普及していたのは世界でも日本ぐらいで、他は韓国、台湾などです。欧米では、「重大疾病」を対象とした保険は売れていますが、がんに特化して保障する保険商品が広く販売されているわけではありませんでした。

 一方で、思いがけずもがんに罹患され、給付金を受けたお客様は、「がん保険に加入していてよかった」と感謝している。これもまた事実です。

 いったい「がん保険」とは何なのか。存在意義はどこにあるのか。

 当時の私が『がん保険のカラクリ』で最も訴えたかったのは、「まずは冷静になって、がん保険や医療保険について学んでみましょう」ということです。不安にかられて、あるいは営業職員との人間関係で保険に加入するのではなく、仕組みを十分に理解し十分に比較検討した上で加入を判断していただきたい。そのための材料をお伝えする。それが、この本のコンセプトです。

 2012年に出版された本ですが、いま読んでも皆さんのお役にたてるという自負があります。また、ライフネット生命が、がん保険を発売した今だからこそ、読んでいただきたいという思いもあります。なぜなら、この本で提起した問題について、実務家としての解答が、私たちが今回発売したがん保険だからです。

 まだお読みではない方も多いでしょうから、ここで改めて、本の内容を簡単に紹介しながら、がん保険についてどう考えていくべきかお伝えしましょう。