「手術を受ける患者にはセカンドオピニオンを義務づけるぐらいのことをしたほうがいいのではないか。それくらいしないと、主治医の言いなりに手術を受ける患者があまりに多すぎる。『別の病院に行っていれば、もっといい手術が受けられたのに』と思う人がいるのも事実です」
がんを専門とする外科医が、本音で話してくれた言葉です。
前回も書きましたが、この8月、「週刊文春」で2週にわたり「ライバルが認める『がん手術の達人』」という大型特集を担当しました(2017年8月17日・24日夏の特大号と8月31日号)。
高齢化が進んで、がん、心疾患、脳疾患などにかかる人が増えました。たとえば日本人は、生涯で2人に1人ががんを経験すると言われています。ですから、これを読んでいる人なら誰もが、人生で1度や2度は手術を受ける可能性があるのです。
後悔しないために、具体的に何を見て選べばよいのか?
その際、みなさんはどのように医師や病院を選ぶでしょうか。冒頭の外科医が語るように、最初に手術が必要と診断した医師の言いなりに、ベルトコンベア式に手術を受ける人もいまだに多いのではないかと思います。
ですが、医師や医療機関によって手術の技術力や成績に格差があることは、どの外科医も認めるところです。もしクオリティの低い手術を受けてしまったら、がんであれば再発リスクが高くなったり、生活に大きな支障を来す後遺症が残ったりしかねません。そんな後悔をしないためにも、手術が必要と言われたら、よく調べてから手術を受ける医師や病院を選んでほしいのです。
といっても、何を見て選べばいいのか、一般の人には難しい面もあるかと思います。そこで、多くの外科医に取材した経験から3つに絞って、重要なポイントをまとめてみました。
その1 手術数の多い病院を選ぶ
どの外科医も共通して言うのがこのことです。なぜ手術数が重要なのでしょうか。それは、手術をたくさんこなすほど医師の経験値が上がり、合併症など不測の事態に対応する能力が上がっていくからです。
では、どれくらいの数をこなしていればいいのでしょうか。患者数が多い病気や少ない病気もあるので一概には言えませんが、年間「50」を一単位として見るとわかりやすいでしょう。1年は52週あるので、50例だとすると1週間に1度はその手術を行っていることになります。実は、最低でもそれくらいのペースで手術をしないと、技術を保つのは難しいというのが、多くの外科医に共通した認識なのです。
もちろん、年間に「50より100」「100より200」「200より300」と、手術数が多くなればなるほど、外科医の経験値は上がっていきます。たとえば心臓外科ではよく、「クオリティの高い手術をするには、年間200例以上の経験が必要」と言われます。
このように、たくさんの手術を行っている病院のことを医学用語で「ハイボリュームセンター(ハイボリュームホスピタル)」と呼びます。実際、ハイボリュームセンターのほうが、手術成績がいい(死亡率や合併症率が低い)ことを示す論文もあり、たとえば日本膵臓学会の「科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン2016」には、「膵癌では、全死亡率の低下、在院死亡率の低下、手術関連合併症の低下、術後在院期間の短縮を考慮した場合、手術例数の多い施設で外科的治療を行うことを提案する」と公式に書かれています。
手術数を目安にすることについては、「病院ランキング本のリストで上位に載ることを目的に、患者を誘導して無理に手術を増やそうとする動機になっている」と指摘する声もあります。確かに不必要な手術を行っていないか、学会やマスコミが批判的に吟味することも必要です。
ただ、多くの手術数を維持するには、地域の医療機関から信頼され、多くの患者を継続的に紹介してもらう必要があります。つまり、しっかりといい手術をして、紹介元の医療機関にいい状態で患者を返すからこそ、たくさんの手術ができるのです。
手術数が多ければ多いほどいいとは言い切れませんが、少なくとも「手術数の少なすぎる病院では、安易に手術は受けないほうがいい」とは言えるでしょう。