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 その後、話題は『わたしを離さないで』を離れ、二人のある「共通点」に移っていった。

 イシグロ氏は長崎生まれで、最初の長編小説『遠い山なみの光』では、原爆が落とされて間もない戦後の長崎を舞台に、そこで生きる女性たちが登場する。

 一方、綾瀬は広島出身で、祖母の姉が被ばくして亡くなっている。そうした経験から、この10年程「NEWS23」(TBS)を中心に、被ばく者にインタビューする仕事を続けてきた。戦後70年だった2015年の夏も、爆心地付近で被ばくしながら生き残った人々の話を聞きにいったという。これまで広島と長崎で40名近い被ばく者に話を聞き、伝える仕事を続けてきた。
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イシグロ氏は長崎生まれ ©ホリプロ

イシグロ さきほどスタッフの方から、はるかさんがおばあ様のお姉さんを原爆で亡くされたことを聞きました。実は私の母も、長崎の原爆で生き残ったんです。母の場合、それほど爆心地の近くではなかったので、被ばくという面では深刻な被害はなかったのですが、爆風でタイルが落ちてきて怪我をした。ただその怪我のために、爆心地付近に駆けつけてお手伝いができなかったのが、結果的には幸いしました。直後から爆心地に入って救助のお手伝いをされた方々は、間接的に被ばくされましたからね。

綾瀬 そうだったんですね。ちょうど今年(15年)の夏は、広島で、爆心地から500メートル圏内にいながら生き残った方々にお話をうかがいました。

イシグロ 原爆の被害者に限らず、第二次世界大戦を経験した世代の方々が、世界中で年々亡くなっていっている。メッセージを次世代に伝えていくことは非常に重要です。私は10年程前にポーランドのアウシュビッツを訪れたことがあります。ホロコーストの犠牲者もかなりご高齢になってきていました。犠牲者が亡くなると同時に経験が消え去ってしまっては意味がない。私たちはそれを伝えていかなければいけません。はるかさんのなさっているお仕事は、非常に価値のあることです。個人の体験者の声を伝えるというのは、歴史の本で「こういうことがあった」と間接的に伝える以上に重要な意味を持っています。

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広島出身の綾瀬はるか ©ホリプロ

綾瀬 私もそう思います。

イシグロ 私が20〜30代の頃はまだ冷戦時代で、西洋社会では核戦争に対する恐れが強くありました。でも冷戦終結後、核に対する恐怖が徐々に忘れられつつあるように感じます。今、世界は非常に不安定で危険な状況にある。その中で核爆弾は未だ存在しています。