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長谷川 晶一
2017/10/09

【ヤクルト】伊藤智仁 「幸運な男」のこれからの人生

文春野球コラム ペナントレース2017

イム・チャンヨン、バーネット、そしてブキャナン

「僕ね、ハングル文字が読めるんですよ……」

 伊藤智仁は切り出した。

「……イム・チャンヨンが在籍していたときに、彼とコミュニケーションを取りたくて、ハングルを勉強したんです。と言っても、独学なので、《ただ読める》だけです。しゃべったり、書いたりすることは、全然できないけどね(笑)」

 子音と母音、あるいは子音+母音+子音の組み合わせからなり、表音文字であるハングルは「ただ読む」だけならば、意外と簡単に習得できるのだという。したがって、「発音はできるけれど、どんな意味なのかはまったくわからないけどね」と伊藤は笑った。

 あるいは、2010年から15年まで在籍し、現在はテキサス・レンジャースで活躍中のトニー・バーネットの話題になると、伊藤の笑顔が弾けた。

「今朝も、BS中継を見てきましたよ。何だか、自分の子どもがマウンドに上がっているような感じで、見ている僕まで緊張してしまうよね」

 アメリカに戻った後にバーネットは「イトウさんは、自分がヤクルトにいた6年間、一度も愛想をつかすことなく、自分がよりよい投手に成長できるよう力を貸してくれた」と振り返っている。つき合いが長くなると、お互いが拙い英語と日本語を交え、通訳を介さずにコミュニケーションを図ることもしばしばあった。

 あるいは、今季の外国人投手、デビット・ブキャナンとプレストン・ギルメットについて話をしていたときには真顔になった。ブキャナンは先発ローテーションの一角として好投を見せていたものの、ギルメットはなかなか結果を出せないでいた。

「ギルメットが孤立しないように、ブキャナンだけを褒めたり、声をかけたりしないように意識していますね。ギルメットも本当によく頑張っているから、何とか結果が出てほしいんですけどね」

 こうした地道な取り組みのせいなのか、シーズン後半になってギルメットは先発ローテーションの一角として、ようやく本領を発揮し始めた。

 故障がちだった伊藤智仁の現役時代。単身でアメリカに渡り、クリーブランド・インディアンスのリハビリ施設でトレーニングを続けた。その際に、アメリカのチームメイトが積極的に声をかけてくれ、自分を気にかけてくれることが嬉しかった。「海外でプレーする不安」を自らが痛感していたからこそ、外国人選手に対するケアには、とても気を遣っていた。

「僕ね、由規と交換日記を続けていたことがあるんです……」

 ある日の取材で、伊藤は切り出した。

「……彼が入団した直後から日記のやり取りをしていました。試合を見ていて気づいたことや、その日のポイントを僕が書いて、それを受けて彼が自分の意見や感想を書いて……。口で言わずに、わざわざ日記にしたのは文字にして残した方がいいのかなと思ったからです。後になって思えば、彼のことをまだ大人扱いしていなかったのでしょう」

 仙台育英高校からヤクルトに入団した希望の星・由規に対する期待はとても大きく、その後も、由規に対する熱心な指導は続いた。続けて伊藤はつぶやくように言った。

「由規、そして村中恭兵。才能あるこの2人の投手を侍ジャパンの主力投手に成長させることができていないという現状。すごく責任を感じています……」

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