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山本 一郎
2017/10/12

人生折り返し地点を回ったらスタート地点で子供が走っているのが見える件

長男の精密検査の結果を聞く日

 夏休みが終わり、入院も一週間が過ぎ、二週間が経って、長男が楽しみにしていた「深海展」は終わってしまいました。また、とても行きたがっていた筑波の高エネルギー加速器研究機構の一般公開も見送りになってしまい、病室で長男がとても残念そうな顔をして不貞腐れています。それでも治療の甲斐あって少しずつ病状が穏やかになり、熱が引くようになると、静かに寝ている病弱な少年は一転、激しく元気になって、一刻も早く科学博物館に行きたいマンに変貌します。図鑑を読み漁り、NHKご製作のDVDを何度も観て、歴史を超えて海を生き抜いた生物のオウムガイやデメニギスやマリアナスネイルフィッシュ、あるいは深海探査艇の「しんかい6500」や「トリエステ」、さらにはトリケラトプスの骨格標本まで、紙に写しまくります。

熱が引くようになると、一刻も早く科学博物館に行きたいマンに変貌します

 そして、長男の精密検査の結果を聞く日……。熱も下がり元気になって、退院に希望を持って先生の話を聞いてみると、あくまで疑いとしながらも、実に聞き慣れた病名が。私が子供の頃、ずっと困っていたものが、そのまま長男に。

 ……マジか。私と、一緒か。そうですか。でもそりゃそうなんですよね、親子なんですから。物事にハマり込むと最後までやり遂げないと気が済まない性格も、何かあるとどこかが腫れて熱を出す体質も、だいたい受け継いだってことなんでしょうか。退院が決まって、久しぶりに家族揃ってホクホク顔で帰宅する途上も、私は色々と思案することしきりでした。

我を過ぎんとするものは 一切の望みを捨てよ

 まあ、私も私なりに平坦とはとても言えない人生の半分を景色すら楽しむことなく走ってきたけれど、まだ走り始めた長男がしっかりと自分の足で完走できるように、かといって、私と同じような道ではなく彼なりの使命や宿命を抱いて前に往けるような、そういう支えになっていかなければいけないのでしょう。

地獄の門を前にする三兄弟

 そんなわけで、科学博物館に行くついでに、西洋美術館で今日も「地獄の門」を見てきました。『我を過ぎんとするものは 一切の望みを捨てよ』ってやつです。子供たちが「地獄の門」を好きなのも、NHKがクリエイターの井上涼を起用した子供向け美術番組を三兄弟が食い入る様に観て、その本物が、目の前にあるんですから、そりゃ喜んで見物しますよね。人生のマラソンにおいて、貴重な景色なんだと思います。

 子供にはいろいろ教えられます。だって、私一人で生きていたら、絶対に「地獄の門」なんて興味持って見に行くなんてこと、ありませんからね。マラソンが終われば、いずれ私もそこを通ることになるのだとしても、ろうそくの最後が尽きるそのときまで、ヨレヨレになっても走り続けるのが人生なんだと息子に教わった気がします

 写真提供=山本一郎

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