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このメンバーと一緒に優勝したかった───三浦大輔×佐藤多佳子 横浜DeNA球愛対談 #1

このメンバーと一緒に優勝したかった───三浦大輔×佐藤多佳子 横浜DeNA球愛対談 #1

日本シリーズ進出記念特別再録 

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ファンはいつも片想いだけど、三浦さんは「両想いなのかな」と思わせてくれる

佐藤 私は三浦さんが2012年7月に150勝を挙げた時は、スタジアムで観戦していたんです。巨人戦でしたけれど、あの時のスタンドの雰囲気を今でもよく覚えています。三浦さんが一球投げるたびに、「ワーッ」という熱い声援が湧き上がっていました。

三浦 149勝を挙げてから、2、3試合足踏みをしているんです。自分の中では150勝というのは通過点だと思っていたんですけど、ピンチを抑えてベンチに帰ってきた時に球場全体の横浜ファンが一斉に喜んでくれて──でも、まだまだシーズンの途中だし、と思いながら、ヒーローインタビューのお立ち台に上がったら、スタンドの方がすごく喜んでくれているのが目に飛び込んできたんです。色んな「150勝おめでとう」というボードが掲げられていて、僕以上にファンの方が喜んでくれているのを見た時は嬉しかったですね。

三浦大輔さん ©杉山秀樹/文藝春秋

佐藤 やはり横浜ファンは、三浦さんに伝えたいことがいっぱいあったんじゃないかと思うんです。2008年にFA宣言をされて、他球団から心の動くオファーがあったにもかかわらず、横浜に残ってくださった。その感謝の気持ちがずっとあって、150勝という節目に、球場で「ありがとう」とお礼とお祝いを伝えたかったというのは、私もそうですけれど、ファン全員の想いでしょう。

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三浦 僕の方こそ逆にお礼を言いたいんですよ。「横浜に残ってよかった」とインタビューで答えていますけど、あれはファンの方が喜んでくださっているのを見て、素直に横浜に残ってよかったと思えたからでした。

佐藤 ファンの気持ちというのは、どうしても片想いな感じがするんですけど、三浦さんは時々、「あ! 両想いなのかな」と思わせてくださる選手です。

三浦 正直なところ、入団したばかりの頃は、ファンの方のことはあまり頭になくて、沢山のお客さんのいる一軍で早く投げたいとか、お金をたくさんもらいたいとか、そういうことばかり考えてましたよ。ファンの存在を改めて考えさせられたのは、2004年に球団再編に絡んでのストライキがあった時のことですね。僕はチームの選手会の役員もしていたんですけど、選手会の中でもストを本当に起こしていいのかという声はあったんですよ。でもこれからプロ野球を目指す子供たちのためにも、球団数を減らすわけにはいかないということで、結局はストで試合中止になりました。

佐藤 あの時、三浦さんの発案でサイン会をされましたよね。

三浦 年に一度、この日の試合を観るのを楽しみにされている方もいる中、試合を中止にしてしまった。代わりに何かできないのかということで、握手会をしようということになりました。どれくらい人が来てくれるか不安だったし、なぜ試合をしないんだと怒られるかと思っていたんですけど、そういう声は一切なくて、来てくれた皆さんが「頑張ってください。選手会を応援します」と言ってくれたんです。プロ野球はこういう方たちに支えられているんだ。ファンと一緒になってこそのプロ野球なんだと、この時に教わりました。

佐藤 三浦さんがFAで横浜に残留してくださると分かった時、私が思ったのは一試合でも多く横浜スタジアムに足を運ぼうということでした。私の住まいは東京なので、大洋ホエールズ時代から神宮球場での観戦が多かったですが、やはりホームで応援してこそ、チームのファンかな、と。一人でも二人でも、スタンドを埋めてにぎわしたいな、と。最近は、もうチケットを取るのが大変ですが。

三浦 特にここ2、3年、球場へ足を運んでくださるお客さんの数が増えて、僕ら選手関係者にもチケット制限があるんですよ。

佐藤 そんなものがあるんですか?

三浦 ありますよ。でも、それはありがたいことで、大勢のお客さんの前で投げられるのは幸せなことですね。

佐藤 チケットを取るのは大変でも、応援する側もスタジアムが満員で「ワーッ」と応援するのは気持ちいいです。

三浦 雰囲気が違います。ガラガラの頃も知っていますし、こういう試合ばかり続いてはそれも仕方ないかという時もあったので……。

佐藤 確かにそうですね。やはり勝つということは大事ですよね。

三浦 もちろん選手としては勝つことが第一ですし、昔は野球だけしていればファンは観に来てくださるという時代もあったと思います。ただ、今はどんどん時代に合った、スタジアムのボールパーク化というか、イニングの合間にも色んなイベントやサービスを取り入れて、野球に興味がなくても観戦が楽しいと思ってもらえるようにする。あるいは野球選手を覚えてもらう機会を設けたり、色んなアプローチが増えたんじゃないかという気はしています。