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連載昭和事件史

《天井からしたたる鮮血》飲む打つ買うの乱行…「オレの領分を荒らす邪魔者を処分する」エリート美男子の享楽的すぎる凶行

《天井からしたたる鮮血》飲む打つ買うの乱行…「オレの領分を荒らす邪魔者を処分する」エリート美男子の享楽的すぎる凶行

戦場の記憶を呼び起こす血なまぐささ「メッカ殺人事件」#1

2021/07/25
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放り込まれた死体…間もなくわかった被害者の身元

 バンド席の前上方に天井裏に通じる切り取り穴があり、そこに死体が放り込まれていた。頭は毛布でくるまれ、両足を電気コードで縛られていた。致命傷は頭部の損傷による失血死とみられた。カウンターの椅子とテーブルの脚、ソファからは血痕が検出された。同書によれば、現場検証と関係者の供述から、次の判断が下された。

1、被害者の傷と死体の位置から単独犯でなく複数犯

2、犯人のうちの誰かが被害者をバーへ誘い込んで殺害した

3、殺害現場はホールで、被害者が腰かけているところを後ろから電気コードで首を絞め、角棒で殴打したと思われる

4、犯行時間は27日午前10時から午後1時ごろの間

 被害者の身元は間もなく割れた。7月28日付朝日夕刊は「バー(新橋)の殺人事件 被害者身元判(わか)る」の見出しで報じている。「28日午後に至り、被害者は横浜市神奈川区白幡向町94、証券ブローカー博多周さん(40)と判明した」「周さんは27日午前7時15分ごろ、『東京へ行く』と言って家を出たままで、日ごろ、仕事のことでしばしば上京していたという」。読売の書いたワイシャツの縫い取りは「ハカタ」の読み間違いだった。

死体を天井裏に運んだはしご(「鑑識捜査三十五年」より)

「ボーイの行方を探しているが、新しく25、6歳のナゾの男が捜査線上に浮かび…」

 朝日の続報はさらに、愛宕署捜査本部が「メッカの住み込みボーイ近藤清(20)を有力容疑者として指名手配した」と報じた。

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 被害者の身元については「鑑識捜査三十五年」によれば、28日午前10時ごろ、日本橋の会社員2人が捜査本部を訪れ「うちの会社に出入りしている博多さんの奥さんから『新聞に出ている被害者の人相、着衣が主人とそっくり。外泊などしたことがないのに……』という電話があった。博多さんは当社から現金40万円の融通を受けているが、その際、正午に新橋で人と会う約束をしていると言っていた」と話した。40万円は消費者物価指数を基にすると現在の約253万円。

 29日付朝刊は朝日と読売が「潮田」、毎日は「塩田」または「庄田」という名前を登場させている。「数人の計画犯行? カギ握る男『潮田』」が見出しの朝日は――。

 東京・新橋のバー・メッカの殺人事件につき、愛宕署の捜査本部では28日午後も、姿をくらましている同店ボーイ近藤清(20)の行方を探しているが、新しく「潮田明」という25、6歳のナゾの男が捜査線上に浮かび、取引関係を背景にした数人の計画的犯行説のカギを握る男として、この「潮田」を追及している。

 

 捜査線上に浮かんだ「潮田」は最近同店に時々現れる客で、同店の常連の1人や女給などの証言によると、犯行前々日の(7月)25日の日曜日は休日なのに、見知らぬ男と同店に現れ、事件当日の午後1時ごろにも同店にいたことが分かった。この時の「潮田」はワイシャツが洗ったばかりのようにずぶぬれで、ホールの床も掃除したばかりだった。間もなく姿を消したが、前後して店に顔をだした近藤も「潮田」の後を追うように姿を消したという。

 

「潮田」は25、6歳。銀行員ふうのやさ男で、証券関係の仕事をしていると平生から言っていたという。