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若山 照彦
2017/11/05

超絶優秀児がどんどん産まれるのか。ゲノム編集の最前線を若山照彦が解説した

若山照彦が『CRISPR(クリスパー) 』(ジェニファー・ダウドナ他 著)を読む

『CRISPR(クリスパー)  究極の遺伝子編集技術の発見』(ジェニファー・ダウドナ 著/櫻井祐子 訳)

 著者ダウドナ博士にとってCRISPRは我が子のようなものなのだろう。CRISPRの成長と将来を心配する気持ちが強く伝わってくる。というのもこのCRISPRは著者らが発見した人類史上最もすぐれた遺伝子改変技術であり、かつてない恩恵をもたらすが、使い方を間違えれば「第六の大量破壊兵器」になってしまうほどのものだからである。従来法では、遺伝子を改変された生物を作るのは運だのみで非常に大変だった。ところがCRISPRは、ワープロで文字を編集するかの如く動植物の遺伝子を簡単に編集でき、腐らないトマトや筋肉隆々の警察犬、臓器移植用のヒト化ブタなどを簡単に作りだせる。そのためこの技術は、遺伝子改変ではなくゲノム編集と呼ばれている。話を誇張しているのでは、と疑いたくなるかもしれないが、私にはこれでも控えめに思える。

 なかでもCRISPRの最大の価値と問題点は、受精卵の遺伝子を簡単に編集できることである。病気の遺伝子を直せば生まれてくる子供は病気にかからなくなるが、それ以上の編集を行うことだってできるだろう。もしこの技術が無制限に利用されたら、お金持ちの子供はみんなゲノム編集され頭も肉体も優れた子供として生まれてくるかもしれない。しかし基礎研究が終わっていない現状で行えば、とりかえしのつかない事故の危険性もある。もし失敗し、CRISPRの使用が禁止されれば、救えたはずの命を救えなくなる。ダウドナ博士は発見者としての責任を果たすべく意を決して、科学者だけでなく一般市民に対してCRISPRのリスクと利益、倫理問題を理解してもらう活動を開始した。

 本書はCRISPRの紹介だけでなく、ダウドナ博士の決意の物語でもあり、そして子供たちの未来に関わる重要な本である。CRISPRやゲノム編集という言葉を本書で初めて耳にしたとしても、数年後には体外受精などと同じくらい一般的な言葉になっているだろう。間違いなく必読書だ。

Jennifer Doudna/1964年生まれ。カリフォルニア大学バークレー校化学・分子細胞生物学部教授。フランスのシャルパンティエ博士との共同研究により、画期的な遺伝子編集技術を生み出した。

わかやまてるひこ/1967年生まれ。山梨大学生命環境学部生命工学科教授。著書に『クローンマンモスへの道』などがある。

CRISPR(クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見

ジェニファー・ダウドナ(著),櫻井 祐子(翻訳)

文藝春秋
2017年10月4日 発売

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