最新のバイオテクノロジーを用いると、どこまで動物をサイボーグ化できるのだろうか。英語のタイトルが「フランケンシュタインのネコ」であることからも分かるように、本書では脳に電極を刺し人間が思う通りにコントロールできるようにした機械化昆虫やネズミだけでなく、発光クラゲの遺伝子が導入された観賞用の光る熱帯魚や、人間用の薬用成分を含んだミルクを出す「医薬品工場化」したヤギなどをわかりやすく紹介している。これらは未来の話ではない。たとえばアメリカの家畜品評会で優勝した牛は、数年前に優勝した牛のクローンだったように、すでに実現化している技術である。国際馬術連盟もついに馬のクローンを認可した。いずれ競馬場で走る馬は、すべて優勝経験のある馬のクローンになるかもしれない。
だが、サイボーグ動物を作る技術はあっても、人々はそれを受け入れられるのだろうか。我々研究者は、価値があると信じて研究を進めているが、それが人々に受け入れてもらえないのであれば意味がない。新技術に対する恐怖心や、動物愛護、あるいは逆に人間の遺伝子が入った動物を作ることは人間の尊厳を損なうという考え方もある。一方で、人々は動物を使った医薬品開発の恩恵は受けたいと考えているらしい。観賞用の遺伝子改変魚はアメリカで大人気となった。またバイオテクノロジーは動物の新たな治療方法としても利用されており、本書では動物福祉を向上させたいのなら最新技術を受け入れるべきだと結論付けている。
著者は必ず現場へ足を運び、サイボーグ化された動物に直に接してから本書を執筆した。そのためサイボーグ動物たちはとても身近で自然な存在に感じられる。我々の研究もそこをゴールとすべきなのだと考えさせられた。全体にバランスのとれた本であり、もしあなたが動物のサイボーグ化に恐怖感や倫理的な抵抗を感じているのなら、むしろ一読を薦めたい。
Emily Anthes/科学ジャーナリスト。MITからサイエンス・ライティングの修士号、イェール大学からは科学史・医学史の学士号取得。本書でアメリカ科学振興協会・サイエンスブックス&フィルム賞受賞。
わかやまてるひこ/1967年生まれ。山梨大学生命環境学部生命工学科教授。著書に『クローンマンモスへの道』などがある。