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「『男社会』で必死に頑張ったのに…」部下からパワハラで訴えられた女性上司が嵌った“女王蜂症候群”という落とし穴

『捨てられる男たち 劣化した「男社会」の裏で起きていること』より #2

2021/08/29
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課長昇進で「景色が変わった」

 そうして19年春、山口さんは38歳で経理部の課長に昇進した。社内では、初の女性課長となり、男性の課長就任年齢からしても早いほうだった。

「景色がガラッと変わった気がします」

 就任から5ヵ月ほど過ぎた頃のインタビューで、開口一番、熱い眼差しで語った言葉が強く印象に残っている。管理職を目指して地道に努力を重ねて実績を積んできただけに、喜びもひとしおのようだった。

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「同じ職種でも、平社員と、指導的地位に就いて業務を行うのとでは大きく異なります。中小企業の課長ですので、プレーイングマネジャーとして実務もこなしながら、部下の育成や組織運営をしていくという点では業務が一気に増えて大変ではありますが、それだけ責任の度合い、つまり仕事の質も高くなって、やりがいは大きいですね」

 以前、懸念していた男性部下との関係はどうなのか。単刀直入に聞いてみた。

「思っていたような問題はなく、後輩から部下へと関係性が変化しても、男性部下たちはしっかりとついてきてくれています。うまくいっていて、実はほっとしているんです。私のいる経理は専門性が高く、入社してすぐか、2、3年以内に配属される者がほとんど。転職組もいないので、ある程度固定したメンバーで苦楽を共にしてきたせいかもしれません」

 女性管理職の数値目標を達成するため、十分な能力を備えていないにもかかわらず、管理職に就かせる“数合わせ”の女性登用によって妥配を振れないケースやパワハラ行為に及ぶなどの深刻な問題を取材していたこともあり、山口さんのように専門性を磨きつつ、後進を指導する経験も積んできた女性が管理職になるケースはまさに模範例のように、この時の取材では思えた。

「あっ、でも……いえ……」言葉を継ごうとして、言いよどむ。

「何かほかに不安材料でもあるのですか?」

「いいえ、そういうわけではないんですが……今度、女性が異動してくるんです。新たなメンバーが加わるのは久しぶりだし、30歳近くになって初めての経理なので指導がそこそこ大変かなと、ふと思ったものですから」

 控え目に明かした経理未経験の女性社員の異動が、後に自身を苦境に立たせることになろうとは、この時点では思いもよらなかっただろう。