文春オンライン

「ニルヴァーナのアルバムの赤ちゃん」だった男性の提訴を嘲笑う人が知らないこと

「正しい被害者像」はセカンドレイプに他ならない

2021/08/30
note

 親から虐待を受けた経験を持つ人の中には、被害に気が付いたのが40代、50代になってからだった、という人も少なくない。「それが普通だと思っていた」「まさか今自分が苦しんでいる精神疾患の原因が、幼少期の虐待だったとは思わなかった」と話す彼ら彼女らの心境は、私にも経験があるためよく理解できる。

※写真はイメージ ©iStock.com

被害者が「被害者らしくない」行動をする理由

 最後に、性的被害を受けたことのある人はもちろん、そうでない人にも知っていてほしい大切な事実を書いておく。

 性犯罪やセクシュアルハラスメントなどの被害者は、ときに加害者に迎合しようとすることがある。「迎合」というのは、例えば相手に自分からお礼などの連絡をしたり、人間関係に影響が出ないよう振る舞うことや、被害後に相手からの誘いを断らないなど、被害者がいわゆる「被害者らしくない」行動をすることである。

ADVERTISEMENT

 この心理と行動は、平成23年に厚生労働省が出した「心理的負荷による精神障害の認定基準について」という通達のなかでも、以下のように明示されている。

(1)セクシュアルハラスメントを受けた者(以下「被害者」という。)は、勤務を継続したいとか、セクシュアルハラスメントを行った者(以下「行為者」という。)からのセクシュアルハラスメントの被害をできるだけ軽くしたいとの心理などから、やむを得ず行為者に迎合するようなメール等を送ることや、行為者の誘いを受け入れることがあるが、これらの事実がセクシュアルハラスメントを受けたことを単純に否定する理由にはならないこと。
 

(2)被害者は、被害を受けてからすぐに相談行動をとらないことがあるが、この事実が心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならないこと。
 

(3)被害者は、医療機関でもセクシュアルハラスメントを受けたということをすぐに話せないこともあるが、初診時にセクシュアルハラスメントの事実を申し立てていないことが心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならないこと。

 

(厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」より)

 私は性的被害を受けたとき、相手に迎合するような行動を取ってしまった自分のことを、長らく責め続けてしまった。明確に被害を受けたのだと理解するまでに時間を要したことを、自分の落ち度だと思い続けてしまった。

 加害者に迎合しようとした自分を責めなくていい。性的被害を訴え出るのに「遅すぎる」なんてことなどない。

 それを知る人が、この記事を読むことで一人でも増えてほしいと思う。

INFORMATION

内閣府男女共同参画局のホームページには、性犯罪・性暴力被害者が相談することができる全国の「ワンストップ支援センター」が掲載されています。メンタルクリニックや産婦人科、カウンセリングを受けることができる機関と連携していますので、性的被害に悩んでいる方は、まずは相談を。

性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター一覧
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/consult.htm

「ニルヴァーナのアルバムの赤ちゃん」だった男性の提訴を嘲笑う人が知らないこと

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー