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死後1か月の亡骸が残された部屋で発見した2匹の猫…“事件現場清掃人”が明かす「人を殺す部屋」の共通点とは

『事件現場清掃人 死と生を看取る者』より#1

2021/09/15

genre : ライフ, 社会

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 物件だけを見ると、少々高額の管理費と固定資産税を支払ってでも、豊かな自然に囲まれて、悠々自適な老後を過ごしたいと考える気持ちもよくわかりました。その温泉街にはデイサービスなどもありましたし、日常的な買い物は今ではインターネットで購入して届けてもらうことができますから、さほど不便でもないでしょう。

 しかし、そのマンションはやはり空室が多く、さらには依頼された現場のほかにもう1室、高齢者が孤独死したという部屋がありました。管理組合の人によれば、その物件のほうは、亡くなった方の遺族と話が折り合わない状態だったそうで、部屋からひどい臭いが漏れ出ているにもかかわらず、手がつけられずに困っているということでした。分譲マンションの場合、相続人からの許可がないことには片付けることができないのです。この部屋は見積もりのみを行いました。

かつては裕福な生活を送っていた人が…

 そして私が特殊清掃を行った部屋は、それはひどいありさまでした。室内には生活ゴミが散らばっていたほか、脱ぎ捨てた高齢者用のおむつが汚物とともに散乱していました。遺体跡の状況からは死後1か月は経っていたと思います。

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 さらに驚いたのは2匹の猫がいたことです。買い置きしていたエサの袋を破って、飼い主の死後も生きながらえたのでしょう。部屋中の汚物は人間のものだけではなかったのでした。

 部屋には、見るからに立派な、重厚なつくりの大きな机が置かれていました。リゾートマンションで暮らすようになる前は、それなりの立場で会社勤めをしていたのでしょう。壁には株主優待で送られてくる航空会社のカレンダーがかかっており、収納スペースからは古いゴルフバッグやオーダーメイドのスーツが出てきて、かつては裕福な生活を送っていたであろうことがうかがえました。そんな人が、晩年は汚物にまみれ孤独に亡くなったのです。

 現場は遠方のリゾートでしたから、結局、その温泉地に2泊して作業を行いました。バブル景気のツケともいえるこういった事例は、今後も増えていくことでしょう。

中年男性の孤独死

 ところで孤独死は、高齢者だけの問題なのでしょうか。事実は違います。一説によれば孤独死をした人のうち、60歳未満が全体の約4割を占めているとされており※5、実際に特殊清掃の現場でも、とくに多いと感じるのは40~50代の中年男性の孤独死です。

 高齢者であれば、ふだんから周囲の人がそれとなく様子を気にかけてくれ、しばらく姿を見せなければ安否を心配されるものです。しかし、働き盛りの年代の男性がしばらく姿を見せなかったとしても、仕事や旅行で不在にしているのだろうと、周囲はさして気に留めることはありません。

 そして、本人が人との交流を絶っているケースではなおさらその死が発見されづらくなるのです。