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マスク越しの会話、聞き取れていますか? コロナ禍で広がる「難聴」の見分け方〈聞き取りづらくなる五十音も…〉

2021/09/11
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 聞き取れない箇所も、よほど重要な部分でない限り分かったような顔をしてそのまま聞き流す。そして、あとで録音した音声をボリュームを大きくして聞くことでどうにか凌ぐ――という、あまり褒められたことではない手法で、この難局を乗り切ろうとしているのだ。

 ちなみに56歳の筆者は、菅義偉首相の自民党次期総裁選不出馬が報じられた日のお昼に、党本部で記者団の質問にマスク越しに答える二階俊博幹事長の受け答えをテレビで見ていたのだが、その発言の大半を聞き取ることができなくて愕然とした。

 何より驚いたのは、現場の若い記者たちが二階氏の発言を受けて質問を重ねていることだ。彼らには二階幹事長の話が聞き取れているのだ。56年も生きていると、意外なところで自分の老いを実感するものなのだ。

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年齢を重ねると聞き取りづらくなる“高い周波数” 五十音では特に…

「人は、年齢を重ねるごとに“高い周波数の音”が聞き取りにくくなります。そして、マスクをするとこの傾向に拍車がかかるのです」(小林医師、以下同)

 日本語は「五十音」で成り立っていて、ア行以外はすべて子音と母音の組み合わせでできている。小林医師によると、この一つひとつの音に周波数の高低があるのだ。

「子音が“K”のカ行、“S”のサ行、“T”のタ行、“H”のハ行などは周波数が高いので聞き取りづらくなる。そのため『白い』と『広い』、『魚』と『高菜』の区別が難しくなります。それでもマスクをしていなければ唇の動きや前後の言葉との関連で理解もできますが、マスクはそうした情報を隠してしまうのです」

子音が“K”のカ行、“S”のサ行、“T”のタ行、“H”のハ行などは聞き取りづらくなるという。間にアクリル板などがあればなおさらだろう ©iStock.com

 たしかに、「首相」「総裁」「素質」「施設」「折衝」などの音は、そう言われてみると聞き取りづらい気がする。なるほど、選挙前に関係しそうな言葉は、マスク越しの「音」として耳と相性が良くないようだ。

 ちなみに、マスクによって判別しにくいのは“音(文字)”であって、“声”が聞こえなくなるわけではない。知っている人から声をかけられれば、その人がたとえマスクをしていても『△△さんだ』という判断はできるのだが、何をしゃべっているのか(内容)は聞き取りづらくなる――ということだ。

 こうした現象は難聴によるもので、マスクの有無に関係なく加齢とともに進行していく。しかし、マスクをした状態で会話をすることで、比較的若い人でも似た症状を起こすことがあるのだ。