個人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防、公安の維持並びに他の法令の執行等の職権職務を忠実に遂行する職業であるにもかかわらず、警察官による不祥事は後を絶たない。2015年には、女性社長に便宜供与を図り、200万円以上を受け取るというあるまじき行為に走った警視長もいた。

 ここでは、ジャーナリストの時任兼作氏の著書『特権キャリア警察官 日本を支配する600人の野望』(講談社)の一部を抜粋。同警視長が不祥事を起こしたにもかかわらず、逮捕を免れた際の一部始終を明らかにする。(全2回の2回目/前編を読む)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

捜査二課は省庁キャリアの贈収賄事件を狙っている

 警察キャリアについて語る以上、彼らの犯罪、不祥事にも触れておかなければなるまい。

 ひとたび警察が動けば、個人はもちろん大企業も、中央省庁のキャリアやその上に立つ政治家さえも相当なダメージを受け、場合によっては命取りになりかねないような事態に陥るのが世の常だが、その絶大な捜査権力を握る彼ら自身が当事者になった時はどうなのだろうか。

 まずは、そこから始めよう。

 実は、かねて付き合いのある警視庁捜査二課の捜査員は、会うたびに筆者にこんなことを口にしていた。

「役人で悪いことしている奴はいない? 金回りがいいとか、派手に女と遊んでいるとか。噂だけでも構わないから、耳にしたら教えてよ。みなし公務員というか外郭団体の奴なんかでもいいけど、できたら国家公務員。キャリアがいいね。挙げられたら、一生の勲章だよ」

 この捜査員の頭には、かつて警視庁が逮捕した厚生事務次官のことがこびりついて離れないようであった。特別養護老人ホーム認可に絡んだ贈収賄事件のことだ。

「あれはいい事件だった。あんなのをやりたいね」

 請われるままに、情報通の友人のキャリア官僚(警察キャリアではない)を紹介したこともあった。あとで聞けば、上司や同僚のことを交友関係や生活ぶりに至るまで根掘り葉掘り聞かれて困った、と言っていた。

「だってな、『誰それの銀行口座を開けてみるか。そうすりゃあ、一発だ。おかしなカネがあれば、すぐにわかる』なんて漏らすんだぜ。そりゃあ、まずいよ。一応はおれの知り合いなんだから」

 捜査二課の刑事は贈収賄事件を求め、その兆候さえあれば、銀行口座の照会くらいのことはすぐにやる。そして、もしおかしな部分が認められれば、24 時間体制の行動監視に移る。捜査を本格的に始動させるわけである。