かつて、高等文官試験を受けて内務省に入り、警察庁に移った「勅任官」が警察には存在した。彼らは今後の警察を背負って立つ人材として、20代のうちから高級料亭での宴席、40歳での県警トップ就任、専用車での登庁、豪壮な公舎など、破格の待遇を受けてきた。

 現代の警察には勅任官こそいない。しかし、将来の幹部候補生として警察庁に採用される“キャリア警察官”の待遇は、やはり一般的な警察官に比べると別格だ。いったい“キャリア”と呼ばれる警察官たちはどのような生涯を送るのだろうか。ジャーナリストの時任兼作氏の著書『特権キャリア警察官 日本を支配する600人の野望』(講談社)の一部を抜粋し、紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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ノンキャリアの大多数は警部補止まり

 内務省の影を色濃く背負って警察エリートとしての道を歩んだ先輩と比べると、やや「庶民化」したようだ。とはいえ、ほかの警察官と比べれば、やはり別格である。

 そもそも、一般の警察官すなわちノンキャリアの場合は、巡査からスタートし、最速で昇進したとしても巡査部長になるのは23歳前後。警察に入って1年以上の研修などを受けたうえ、配属されてから大卒で1年、高卒で4年の実務経験を必要とするからだ。

 そして、その後、大卒の場合は1年、高卒だと3年の実務を経て、警部補試験資格が得られるため、警部補は最短でも25~26 歳。以降は、それぞれ数年間の経験を踏めば警部、警視と昇進することも可能だが、大多数は警部補止まりであり、最も昇進しても警視長までである。

 しかも、警部以降の昇進試験は急激に狭き門となり、仕組みとしては30歳で警部、35歳で警視、45歳で警視正、50歳で警視長というコースもあるものの、そんな警察官はほとんどいない。ごくごくまれに35歳で警視、45歳で警視正となれた者がいたとしても、警視長になるのは60歳の退職間際というのが実際のところである。

キャリアと準キャリアの差も歴然

 それから、準キャリアと呼ばれる存在もあるが、やはり昇進など待遇面で明確な違いがある。正式には国家公務員一般職試験(旧国家公務員Ⅱ種試験、国家公務員中級試験)に合格して警察庁に採用された警察官のことである。入庁すると、すぐに巡査部長となり、その後はキャリアと同じく無試験で昇任するが、階級は警視長止まりであって、最も出世した者でも小規模県警の本部長、警察庁の課長に就任するのがせいぜいだ。警視監となって大規模県警の本部長や管区警察局長、警察庁の局長などになることはまずない。