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菅政権の肝煎り政策は「誰かが言っていたもの」ばかり…背後にいた“謎の外国人”と“大物金融ブローカー”とは

『墜落 「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』より #2

2021/09/28

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 社会, 政治, 読書

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「どこかで見た」政策ばかりの安倍・菅政権

 有識者会議の名称も今の成長戦略会議と同じだ。ちなみに前原の話に出てくる福田とは、竹中平蔵のブレーンである経営コンサルタントの福田隆之である。19年暮れまで菅官房長官の補佐官を務めてきたことは前に書いた。

 安倍と菅に共通しているが、二人は自らの失政や不祥事を野党から責められると、「悪夢のような民主党政権よりよほどいい」と繰り返してきた。だが、それでいて空港や水道の民営化といった経済政策は、民主党時代に考案されたものである。ある厚労省の官僚によればこうだ。

「民主党時代の09年から内閣官房地域活性化統合事務局長として官邸入りしていた和泉(洋人)さんが、第二次安倍政権で首相補佐官になり、インバウンドをそのままやろうとしたわけです。厚労省にとつぜん『民泊を法制化しろ』と言い出して、『一週間で何とかしろ』と指示され、外国人向けの宿泊施設を増やすための法整備に取り組んだのです」

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和泉洋人氏 ©文藝春秋

 改めて説明するまでもなく、菅が横浜市議時代から政策を頼ってきた和泉は、菅政権の中核を担う官邸官僚である。

「インバウンドのために増やそうとした民泊は、もともと旅館業法によって厚労省が所管してきた宿泊施設扱いなので、厚労省に仕組みづくりが下りてきたわけです。海外ではたとえば英国の民泊営業上限が90日となっています。しかし、それでは民泊業者にうま味がないので、日本の場合は180日に上限を設定しました。民泊はホテルや旅館の営業を圧迫するので、そこから反対が出ないギリギリのラインでした」(同厚労省の官僚)

 住宅を所管する国交省と厚労省の合作法案として住宅宿泊事業法、通称民泊新法が2017年に閣議決定され、18年から法施行された。ビザの緩和と併せ、これがインバウンドを後押ししたといえる。

 とどのつまり、民主党の前原案をそのまま安倍前政権に持ってきたのがインバウンド政策であり、そこには、むろんアトキンソンの貢献はない。

 アトキンソンは英オックスフォード大で日本学を専攻し、90年に来日した。92年から07年まで米ゴールドマン・サックスの日本経済担当アナリストとして勤務し、そのあと09年11月に小西美術工藝社に取締役として入社している。小西美術工藝社は57年12月に創業された。日本の神社仏閣の漆塗、彩色、金箔補修を担う老舗企業だ。