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菅政権の肝煎り政策は「誰かが言っていたもの」ばかり…背後にいた“謎の外国人”と“大物金融ブローカー”とは

『墜落 「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』より #2

2021/09/28

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 社会, 政治, 読書

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 安倍政権時代から「インバウンド6000万人」を掲げて施策を進めて来た菅義偉氏にとって、コロナ禍による観光業界が受けた大打撃は大きな痛手となった。

 しかし、菅氏が長年にわたり取り組んできたインバウンド政策も、実は「誰かが言っていたものをあたかもご自身で考えついたかのようにいっているだけ」なのだと、官邸関係者は言う。ここではノンフィクションライターの森功氏の著書『墜落 「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』(文藝春秋)の一部を抜粋。菅政権が立てた政策の本質を探る。(全2回の2回目/前編を読む)

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青い目のブレーンを引き入れたワケ

 基本的に安倍政権の経済政策をそっくり引き継いだ菅政権では、それだけに独自色を印象付けようとしているかもしれない。名称が改まった有識者の第三者機関「成長戦略会議」には、新たにインバウンド政策の発案者として売り出し中のデービッド・アトキンソンも加わった。

「2013年から始めた観光立国の仕組みづくりに際してアトキンソンさんの本を読み、感銘を受け、すぐに面会を申し込んだ。その後何度も会っている」

 〈スペシャル対談 官房長官 菅義偉×小西美術工藝社社長 デービッド・アトキンソン――カギはIRとスキー場だ〉と題した「週刊東洋経済」の2019年9月7日号の特集記事で、官房長官時代の菅自身がこう語っている。

「ビザの規制緩和により海外旅行者を急増させた」

©文藝春秋

 インバウンドは、ふるさと納税と並んで菅が鼻息を荒くしてきた政策だ。それだけに、譲れないのだろうか。このコロナ禍で首相になってなお、ウイルスの脅威を度外視し「2030年インバウンド6000万人」達成の大風呂敷を広げたままだ。さすがにGoToキャンペーンなる無茶な景気対策は停止を余儀なくされたが、いまだインバウンドの目標だけは死守しようと必死なのである。

 もっとも首相ご自慢のインバウンドもまた、ふるさと納税と同じく、政策を提案したのは菅本人ではなく、アトキンソンでもない。

「菅総理の政策はすべてが、どこかで誰かが言っていたものをあたかもご自身で考えついたかのようにいっているだけ。インバウンドももとはといえば、旧民主党の前原誠司さんが提案したものです」

 官邸関係者はそう話す。私自身、前原にインバウンドの件を尋ねたことがある。こう話していた。

「私は国交大臣のとき、公共事業を減らそうと、コンクリートから人へ、という政策を打ち出し、国土交通省に成長戦略会議を立ち上げました。その五つの成長戦略テーマの中核がインバウンドでした。当時はまだ外国人観光客が年間600万人台でしたので、それを3000万、4000万と増やそうという構想を立てたのです。戦略会議には福田さんにもメンバーに加わってもらった」