アトキンソンはその経営再建を任された。名うての外資系アナリストと日本の文化財を守る老舗企業経営者という二つの顔を併せ持つ。入社した明くる10年6月に会長に就任。しばらく社長を兼務したあと、14年4月から社長に専念してきた。
菅が読んだという書籍は15年にアトキンソンが東洋経済新報社から出版した『新・観光立国論』だ。菅本人の言によれば、本に感銘して会いに行ったことになっているが、そのあたりもどうやら怪しい。
いわば菅は、アトキンソンのネームバリューを使い、インバウンドの指南役に仕立てただけではないだろうか。かたやアトキンソンにもインバウンド政策の看板を掲げるメリットは大きい。小西美術工藝社は、インバウンドの観光政策が大きな利益を生んでいるからだ。
下村博文と旧知の大物金融ブローカー
「文化財を活用した観光で注目を集めれば、その文化財を保護するための補助金も得られやすくなる。国の財政が厳しい現在、観光資源にならなければ保護も厳しくなる」
17年4月26日付の朝日新聞東京朝刊には、アトキンソン自らがそう談話を寄せている。実際、17年に補修を終えた国宝の日光東照宮陽明門は、その総工費12億円のうち55%を文化庁の補助金で賄い、大部分の工事を小西美術工藝社が担ってきた。会社の18年の年間売上げ8億2000万円が、19年には9億8000万円と前年比2割もアップしている。菅とアトキンソンの二人はまさしく持ちつ持たれつの関係にある。
おまけにアトキンソンの菅政権への提言は観光にとどまらない。アトキンソンのもう一つの持論が、最低賃金の引き上げなどによる中小企業の再編だ。日本の企業の99.7%を占める中小企業の数を減らし、生産性を高めよ、という。しかし、これには霞が関の官僚からの不満も少なくない。経産官僚が言う。
「中小企業の賃金問題や数が多いのは誰もがわかっているけど、そう簡単に整理統合なんてできません。企業の数を減らせば大量の失業者が発生するのは目に見えており、徐々に変えていくしかない。経営者にしてみたら、ただでさえコロナ禍で経営が苦しいのに実情がわかっていない外国人に言われたくないよ、という思いではないでしょうか」