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辻本 力
2017/11/19

宇多丸×真魚八重子「ダメ人間」バリー・シールを演じるトム・クルーズは最高!

オススメの「実録犯罪映画」対談#1

 トム・クルーズの新作『バリー・シール/アメリカをはめた男』は、1970年代に大手航空会社のパイロットとして活躍し、CIAから極秘密輸作戦のパイロットにスカウトされ、さらに麻薬の密輸で巨万の富を築いた実在のアメリカ人=バリー・シールの生涯を描いた「実録犯罪映画」。

 今年7月、「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(TBSラジオ)の「みんな大好き!“トム・クルーズ”総選挙」で初共演した宇多丸さんと映画評論家の真魚八重子さんに「ダメ人間」を演じるトム・クルーズの魅力と「オススメの実録犯罪映画」について、熱く語っていただきました(全3回の1回目。#2に続きます)。

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実は雑魚キャラ? 本当のバリー・シールとは

――新作映画『バリー・シール/アメリカをはめた男』のトム・クルーズはいかがでしたか?

真魚 トムの演じるキャラクターって、超人かダメ人間か、大きく2パターンに分けられると思うのですが、実在した麻薬の運び屋バリー・シールを演じた本作は、久々に後者をたっぷりと味わえる作品でした。

© Universal Pictures

宇多丸 本作の監督ダグ・リーマンとは、以前タイムループSF『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014年)でもタッグを組みましたが、そういえば、あの作品でもトムはダメ人間でしたね。

真魚 リーマンは、近年におけるトムのそっち路線を開拓している監督の筆頭格です。「トム・クルーズ映画」というと、どうしても狭い感じに見られがちですが、前述の2パターンのなかで、本当にいろいろな役を演じている。実は、かなり振り幅の大きい俳優だと思うんです。

宇多丸 トムのキャリアは、点じゃなくて、線でみるとメチャメチャ面白い。何といっても、作品選びのセンスがたいへん素晴らしいんですよ。自分を立たせる監督をフックアップする眼力には脱帽です。自分を客観視できるし、何より、映画というものを多角的に見られるプロデューサー体質な人だと思います。しかし、この役をチョイスしたというのは面白いですよね。だって、このバリーという男は、現実にはもっとショボい男だったわけで、本来スターであるトムが演じるような人間ではない。

真魚 トムにはきっと、自分がやれば成立するという確信があったんでしょうね。

宇多丸 実在の麻薬王パブロ・エスコバルを描いた海外ドラマ『ナルコス』(NETFLIX)にも、バリーが出てくるんですけど、これが雑魚キャラ中の雑魚キャラで、おそらくこっちの方が実物に近い(笑)。『バリー・シール』での扱いとは雲泥の差です。

「ただの旅客機パイロットで終わる人ではないよな」

真魚 もともと大手航空会社TWAでパイロットとして働いていたバリー・シールは、その腕前を買われて、在職中から裏で密輸に手を染めていたんですよね。でも、彼がCIAの工作員と麻薬の運び屋の二重生活を送ることになるのは、賢いからではなくて、単に捕まりたくなかったり、その筋の人たちから殺されるのが嫌だったから。断れずにその場しのぎでやっていたら、なんか超儲かっちゃった、みたいな話。お金が入ってきても、マネーロンダリングとかできないから、現金を持て余してしまう。

宇多丸 末端のチンピラだから、そんな発想は皆無だし、できる立場にもいない。で、庭もクローゼットも全部現金で埋まってしまい、困り果ててしまう(笑)。とにかく、いろいろと雑な人なんですよね。

真魚 そんなキャラクターでも、トムがやるとこんなに話も膨らむし、魅力的な人物として、彼の人生に観客がちゃんと思い入れることができるのだなぁと驚かされます。

© Universal Pictures

宇多丸 名パイロットならではのテク、アイデアで窮地を次々切り抜けていくわけですが、この「ぬけぬけと」感、「出し抜いてやった!」的な快感は、マーティン・スコセッシ監督の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)に通ずるところがありました。これも、元株式ブローカーのジョーダン・ベルフォートの実話が元になっている作品です。物事がアホみたいに上手くいってしまう時の高揚感・全能感に満ち満ちている。

真魚 トム・クルーズに飛行機といえば、何といっても『トップガン』(1986年)で人気俳優になったわけですから、観客もあのイメージ込みで見てしまう。観る方が下駄履かせてる感はありますよね。

宇多丸 つい、ただの旅客機パイロットで終わる人ではないよな、と思ってしまう。でも、あの役からトムのオーラを取ると、『ナルコス』での扱いが妥当になる。こんな無茶する人、普通絶対死ぬでしょ。

真魚 実録ものじゃなかったら通用しない話かもしれませんね。オリジナル脚本でこれ提出したら、「こんな話ありえない!」と却下されてしまうのでは。最近だと、北海道警察の警部が覚せい剤取締法違反容疑と銃砲刀剣類所持等取締法違反容疑で逮捕された「稲葉事件」を描いた、白石和彌監督の『日本で一番悪い奴ら』(2016年)も、「これ本当に実話?」というレベルのトンデモな内容で面白かった。

宇多丸 綾野剛演じる主人公の刑事は、銃の検挙率を上げるためにヤクザから銃器を調達するんですけど、本人はいたって真面目で、ただただ仕事熱心なだけなのが可笑しい。これらの映画は皆、非常識な世界に生きてしまっている人たちを客観的に見る面白さがあります。

真魚 異常な状況を普通と思ってしまっている人たちの、生態観察的な趣がありますよね。