「ゾンビを倒すには頭を撃たなければならない」

 7月16日、ゾンビ映画の巨匠として知られる、ジョージ・A・ロメロ監督が肺ガンのため亡くなりました。ロメロの存在がなければ、今のゾンビ映画やゾンビドラマの興隆はありえなかったでしょう。その圧倒的影響力は、現在も作られ続けるゾンビ作品に、ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68年、以下NOTLD)で作られたルールが、暗黙の了解としていまだに働いていることからもわかります。

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「ゾンビを倒すには頭を撃たなければならない」という、素朴ながら難易度が高いルール。この約束事から逸脱して、腹を撃つだけでとどめを刺せるゾンビ映画を観ると、違和感を覚えるほどにNOTLDは規範となっています。日本でも、昨年公開された大泉洋主演の『アイアムアヒーロー』(16年、佐藤信介)が、「頭部すべてを破壊しなければ死なない」というゴア(流血)描写要素を増しながら、やはり頭を狙う点においては、正しくゾンビ映画の後を継いでいました。ちなみにNOTLDでは「ゾンビは火を恐れる」という弱点もあったのですが、スマートさに欠けるせいかなかったことになってますね。

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)

ゾンビより怖くて不条理なものは?

 NOTLDは低予算で作られ、俳優も無名なモノクロの自主製作映画です。それがいまや、アメリカ国立フィルム登録簿に永久登録されているのは、もちろん傑作であるだけでなく、社会的メッセージが読み取られたためでしょう。当時のロメロはただ、好きな小説や映画に影響を受けつつ、自分の映画を作りたいという欲求に突き動かされていたようですが、ジョン・A・ルッソによる脚本や、ロメロの演出には、無意識に社会の差別の構造や、人間のエゴイズムを見つめる視線がありました。

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『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』 無名俳優を起用したモノクロの自主製作映画だった

 NOTLDはゾンビに襲われ、たまたま同じ一軒家に逃げ込んだ無関係な人々を描いています。指揮を執り始める意志の強い黒人の青年。兄が目の前でゾンビに襲われたため、ショック状態の女性。そして一つ屋根の下でも、ゾンビの接近に恐れをなして、仲間を見限ろうとする家族連れの中年男。互いのエゴや、裏目に出た勇気などで自滅していく姿は、ゾンビよりも人間の怖さや不条理を感じさせます。