『ゾンビ』が映し出す人間の“タガ”が外れた瞬間
そしてカラーとなり、特殊メイクのトム・サヴィーニによって、生々しい恐怖が生まれた『ゾンビ』(78年)。主人公たちが立てこもるショッピングセンターがメインで、これも後々の映画において、無人のスーパーで束の間、タダの買い物を楽しむパターンとなったシーンです。本作はエゴのぶつかり合いはないものの、非常事態の中で興奮した人間のタガが外れる心理描写が見事でした。
ロメロはゾンビ映画だけを撮っていたわけではありません。『マーティン/呪われた吸血少年』(77年、未公開)はあえて曖昧にしていますが、精神的な病理を扱った映画です。オムニバス形式の『クリープショー』(82年)も人気のある作品。個人的に、ラストを飾る話はトラウマで、これだけは観返さないんですけど……(観てる方ならわかるはず)。『モンキー・シャイン』(88年)も、事故で寝たきりとなった青年VS介護オマキ猿の死闘という、ヘンな映画でした。
やはりロメロの真価が発揮されるのはゾンビ映画です。『死霊のえじき』(85年)では、ゾンビを教育しようとする博士に訓練を受けて、人間の感覚を微かに取り戻し始める、“バブ”というゾンビが登場。いじらしく、かっこいいゾンビとして人気の高いキャラです。
ゾンビが人肉以外のものを食べる、新たな可能性
ロメロは2000年代になってから、活力を取り戻したようにゾンビ映画を続けて発表しました。『ランド・オブ・ザ・デッド』(05年)はディストピア物で、富裕層は河で隔てられた場所に立つ、堅牢な高層マンションに住み、貧しい者はスラム化した街に追いやられています。これも、富者のエゴイズムや貧富の差が生み出す破壊を描きつつ、徒党を組むゾンビの、リーダーである黒人ゾンビがヒーロー性を備えています。
07年の『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』は流行のPOV(主観映像)を取り入れ、学生たちがゾンビから逃げつつ、その模様を撮影。YouTubeでゾンビの発生が世界規模とわかるなど、ネットの情報やカメラの有効性に着眼した作品でした。この映画のラストカットは、明らかにゾンビに感情移入しており、人間の残忍さを訴える悲しい美しさで泣けます。監督作としては最後の作品となった『サバイバル・オブ・ザ・デッド』(09年)では、ゾンビが人肉以外のものを食べる、新たな可能性を示していました。
NOTLDを創り出した神の終焉。しかしこれからのゾンビ映画も、当然の如くロメロの作ったルールに従い、そこから発展させた斬新さを追求していくと思います。たとえば俳句が、季語や五七五の縛りに則りつつ、その中での大胆な解釈や視点が個性となるように。もし俳句がなんでもアリなら、逆に面白みを失ってしまうのと同様に、ロメロのゾンビルールは飛躍のための規範として、今後も生き残り続けることでしょう。
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