ライムスターの宇多丸さんと映画評論家の真魚八重子さんによる「オススメの実録犯罪映画」対談。第2弾は「実録犯罪映画」の歴史と変遷、「これはお前のことだぞ」と自分が名指しされているような錯覚に陥る、恐怖の「指差し映画」について。ラスベガスの銃乱射事件、座間9人殺害事件など国内外でフィクションさながらの事件が相次ぐなかで、「実録犯罪映画」が問いかけるものとは何なのでしょうか。(全3回の2回目。#1#3も公開中です)

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実録犯罪映画の系譜

真魚 「実録犯罪映画」って、たとえば実在の犯罪者カップル、ボニー&クライドをモデルにした『暗黒街の弾痕』(1937年)や『拳銃魔』(1949年)を始め、かなり昔からありますよね。それ以前に、クラシックなギャング映画なんかは、具体的に「この人」というモデルはいなくとも、明らかに当時世のなかを騒がせていた犯罪者たちをネタにしていますし。

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宇多丸 古いところだと、フリッツ・ラング監督の『M』(1931年)とか。ドイツの実在したシリアルキラー「デュッセルドルフの吸血鬼」ことペーター・キュルテンがモデルですが、1929年から連続殺人を開始し、死刑になったのが1931年。ほとんどリアルタイムの事件を、そのまま映画にしてしまっているから驚きです。

 

真魚 「ボストン絞殺魔事件」に材を取ったリチャード・フライシャーの『絞殺魔』(1968年)も早かった。容疑者が係争中の時点で、犯人を推論で確定して映画化してしまったのはいかがなものか、とも思いますけど。同監督の『10番街の殺人』(1971年)も実録犯罪ものですが、実際に殺人が行われた建物で撮影していたりと、まあやりたい放題です(笑)。

宇多丸 悪趣味ですよねぇ(笑)。

シリアルキラーが今、この映画館に……?

真魚 そのへんの時代を舞台にした作品に、デヴィッド・フィンチャー監督の『ゾディアック』(2007年)があります。60年代後半にアメリカで起こった連続殺人事件「ゾディアック事件」を描いているのですが、刑事や個人的興味で事件を追っているイラストレーターが、映画館に『ダーティハリー』(1971年)を見にいくシーンが印象的でした。

宇多丸 『ダーティハリー』に登場する連続殺人犯「スコルピオ」は、ゾディアックをモデルにしているんですよね。

 

真魚 実際に警察は、ゾディアックが自分の犯した犯罪がどのように描かれているか、自ら映画館に確認に来るのではと考えていたそうです。

宇多丸 ゾディアック事件は未解決なので、当時の『ダーティハリー』の観客たちは、野放しになっている犯人がまさに今、自分と同じ映画館で映画を見ているかもしれない……みたいな恐怖を感じてゾクゾクしたんでしょうねぇ。映画というものは、昔からそうしたセンセーショナリズムを織り込み済みのエンタメだった。