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宇多丸×真魚八重子 「俺を指差すな!」と思ってしまう恐怖の「実録犯罪映画」

オススメの「実録犯罪映画」対談#2

2017/11/26
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事件は、犯人だけのものではない

真魚 犯罪に惹かれてしまう人というのはたくさんいて、現に殺人鬼マニアは全世界的にポピュラーな存在です。あるいは、犯罪者に恋をする人も少なからずいて、なかには獄中結婚してしまうような例も。日本でも、2001年に大阪で起こった小学生無差別殺傷事件「附属池田小事件」の犯人・宅間守が獄中結婚していますね。で、この事件と「秋葉原通り魔事件」をモデルにしたのが赤堀雅秋監督の『葛城事件』(2016年)です。この作品の特徴は、殺人を犯した本人よりも、そうした人間を作り出した父親や家庭環境に焦点を当てていることです。

 

宇多丸 この映画における最大のモンスターは、殺人犯ではなく、三浦友和が演じているその父親ですものね。「子どもたちを、何不自由なく育ててやりたいと思いましてね」とか言って、良かれと思ってやっていることが、すべて裏目に出ているのが悲しい。

真魚 「あさま山荘事件」とかも、そのパターンですよね。日本を良くするという理想に燃えているはずだったのに、気づいたら大量殺人が起こっていた。若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』(2007年)は、そんな道の踏み外し方が詳細に描かれていました。それと、同じ事件を題材にした『突入せよ!「あさま山荘」事件』(2002年)には、批判的な人も少なくありませんが、警察目線の働く映画であるところとか、私は非常に面白いと思っていて。

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宇多丸 事件は犯人だけのものではなくて、その家族のものでもあり、被害者のものでもあり、それを捜査する警察のものでもあり、報道する者のものでもある。同じ事件でも、視点を変えると、またガラッと見え方が変わるところも実録映画の面白さです。『葛城事件』は、母親役の南果歩が、呆然と「どうしてこんなとこまで来ちゃったんだろう?」と呟くシーンの絶望感が本当に凄まじかった。

『葛城事件』の父親が「俺は知らねぇ」と言いたくなる気持ちも……

真魚 あの、取り返しのつかない感は凄いですよね。映画とは関係ないのですが、私、昔から些細なミスが大勢の死傷者を出す状況がものすごく怖くって。たとえば住み込みの人の失火が原因で、他の従業員や雇い主一家から何人も死傷者が出た事件とか。これって、言ってしまえばケアレスミスが原因なわけですよね。些細な出来事がたまたま不運につながってそういう人が悪気なく起こしてしまったことと、その結果の重さが、あまりにも釣り合っていない。責任を負える範疇を超えています。これが自分だったらと思うと……。

宇多丸 エリオット・レスター監督の『アフターマス』(2016年)という、実際にあった飛行機事故を描いた映画を思い出しました。管制官の慣習化していた規則違反と、その日に限って起こってしまった、ちょっとしたボタンの掛け違いが原因で、何百人もの人間が亡くなってしまう。で、その管制官も、やはり自分のしてしまったことを背負い切れず、「俺は悪くない」「いつも通りやっていただけなんだ」という反応をしてしまう。でも、これって非常に人間的な反応でもあって、理解はできるんですよね。ただもちろん、そのことでさらに遺族感情を逆撫でしてしまうわけですが。

 

真魚 私なんか、そうなったらオロオロすることしかできませんよ。責任負いますとは言っても、とても償いきれるものではない。

宇多丸 だから、『葛城事件』の父親が、息子があれだけの事件を起こしてしまった時に「俺は知らねぇ」と言いたくもなる気持ちも、わからないではない。